恋愛論的ミスマッチ 12


「俺は…っ!」


揺れる瞳が私を見る。
怒っているというよりも、彼はただ、ひどく辛そうだった。


「ルクシオ…?」


近寄り声をかけると彼はハっとしたように口を噤んでしまった。
私を避けるように視線を逸らす。


「…わりぃ。やっぱ、なんか変だわ俺。本格的に疲れてるのかも」


取り繕うような口調が嫌だった。
彼は苦しんでいるのに、私にはそれが何かわからない。


「今日はもう帰っていいぞ。俺も、少し休む」


エプロンを外しルクシオが踵を返す。
慌ててその腕を掴んだ。今彼を一人にしては駄目だ、込みあがる焦燥感に力のまま彼を引き寄せる。


「待ってください…っ」


勢いで倒れこんできた彼を抱きとめると、思ったよりも華奢な体はすっぽりと私の胸に収まった。

ビクリ、と彼の体が強張ったのがわかる。
それでも彼を抱きしめる力を緩めることができない。


「すみません」


口先だけで謝りながら、ますます強く抱きしめてしまう。
離したくなかった。

小刻みに震える体、鼻先を掠める柔らかな毛、それらをもっと近くで感じたい。


「何か、悩みがあるんじゃないですか?私でよかったら何でも言ってください。あなたの力になりたいんです。あなたがそんな辛そうな顔をしているのは見てられません」


本音ではあるが、言い訳のようでもあった。

彼がこの行為を変に思わないように、まるで彼のためと言わんばかりに白々しい上辺だけの言葉を重ねながら…その実、私は彼を抱きしめていたいだけではないのか。


「お願いです。私を頼ってください」

「…言ったら、おまえ、俺のこと嫌いになるかもよ」


泣きそうな声が胸をくすぐる。

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