恋愛論的ミスマッチ 9


「それよりこれっ!ちょっと食べて見てくんない?」


彼は私が何をしていたかなどさして気にする風もなく、しゃがみこんで私に目線を合わせてきた。


「ほらっ!口開けって」


ボールから白い塊をすくい私の口に突きつけてくる。
促されるままに口を開くと、すかさずスプーンを咥えさせられた。


「…っ」

「どうだ?」


ヨーグルト、だろうか?
冷たい甘酸っぱさが口の中に広がった。
驚きに目を見開く私をルクシオが覗き込んでくる。

近い…っ。
彼の瞳に私の間抜け面が映し出されているのが見える。
それほどに彼との距離が近い。
こんな風に間近で見たことなどなく、心臓が早鐘のように打ち始める。

火照る頬の熱に口の中のヨーグルト風味の何かはとっくに溶けてしまっていた。


「余ったヨーグルトでアイス作ってみたんだ。俺的には会心の出来なんだけど…あんま美味しくない?」


慌てて首を振った。
美味しい、と思うのだ。
思うのだけれど、…正直、味わう余裕などない。


「ほら、もう一口」


ん?とスプーンを向けられ、また恐々と口を開く。


「おい、しい…です」


今度はちゃんと言えただろうか。
随分と小さな声になってしまったが、彼は満足げに頷いてくれた。


「だろ?絶対お前好みだと思ったんだ」


彼はどこまで私を惹きつけるのだろう。
嬉しいのに、やはり苦しいと思った。



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