恋愛論的ミスマッチ 8


彼は何をそんなに喜んでいるのだろう。
共有したい、痛烈に思った。

遠くで眺めるよりも、もっと近くでもっと傍で、彼が何を見何を感じているか知りたい。
頭で考えるよりも先に体が動く。
彼の名を呼ぼうと口を開きかけたとき、


「アブソルっ!おーい!アブソル!ちょっとこっち来てくれ!」


私よりも先に彼が私の名を呼んだ。

え……?
彼は私に気づいていたのだろうか?

そんなはずはない。
だって、私は彼から身を隠すようにして厨房を伺っていたのだ。

体から力が抜けていく。
ずるずると背が壁を伝い、座り込む形になってしまった。

顔が燃えるように熱かった。
すぐに返事をしなくては、そう思うのに、まるで喉に石が詰まったかのように声が出ない。


「アブソルー!どこだー?」


込みあがる苦しさに片手で口を覆う。
バタバタと近づいてくる足音に慌てるも、どうにも足に力が入らない。


「アブソ…うおっびっくりした!」


逃げることも叶わず、私は座り込んだ形のままルクシオに見つかってしまった。
驚かせてしまった、そのことを詫びようとしたが、今は彼の顔を見ることがどうしようもなく恥ずかしかった。


「何だよ。傍に居たんなら返事くらいしろよ。びびっただろ」

「あの…いえ…っ、これは…」


言い訳しようにもシドロモドロで自分でも何を言っているのかよくわからない。



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