恋愛論的ミスマッチ 7


その翌日から私は仕事が終わると午後からルクシオのお店を手伝うことになった。
彼のお店は思ったよりもずっと繁盛しており、開店から閉店まで座る暇がない日もしばしばある。


この日もそんないつもと同じ忙しい日だった。
営業中の札を準備中に換え店内に戻るとさっきまでカウンターを拭いていたルクシオの姿が見当たらない。

奥の厨房だろうかとそちらに足を向けた時、ふいに楽しそうな鼻歌が聞こえてきた。
一瞬誰か来ているのだろうかと思ったが、そっと厨房を覗くとルクシオしか居ない。

彼が歌っているのだ。
ボールと泡だて器を手にふんふんと上機嫌で作業をしている。

今日も一日とても忙しかったのに疲れなんて少しも感じさせない彼の気力はすごい。
あまりに楽しそうなのでなんとなく声をかけるのは躊躇われた。

何を作っているんでしょうね。
たまに、あ!ヤベ!とか、んん?っかしーな〜、とか独り言が聞こえてくる。

忙しなく動き表情をくるくる換える彼の姿に、顔が綻んでくるのが自分でもわかった。
このお店を手伝わせてもらえて私は本当に運が良い。
それまでの単調な日々は一転し、今は一日一日が楽しくて溜まらない。

一日の終わりが来ると、今日を惜しむ気持ちと早く明日になれと願う気持ちがせめぎ合う。
幸福な、とても贅沢な悩みだ。


「よし!」


一際明るい声が聞こえてくる。
作っていたであろう何かをスプーンですくい口に頬張る。
途端に、ルクシオは輝かんばかりの笑顔になった。


「うっめー!俺天才じゃん!」


その笑顔があまりに嬉しそうだから、私は胸が締め付けられるような気がした。



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