こころ、安定を失くす1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「こんな罠にはまるなんて、不注意だぜ」
チナに助けられて穴から這い出たオレに、笑いを含んでチナが言った。
以前オレが言った言葉を、そっくり真似て。
「……」
オレは言葉もない。
恥かしい…。
穴があったら、入りたい…。
(いや、今出てきたばっかだけど)
「チナは、どうしてこんな夜中に…?」
小さな声で尋ねると、
「お前だってそうだろ。」
至極当然な答え。
「あー、オレは……散歩…」
そう言えばオレもだ、とチナ。
「あ…、んじゃ、これで……チナ、ありがとね」
そう言って、急いでチナから離れて走り出そうとしたら、
「あっ、おい…っ、待てって」
とっさにチナがオレの手を掴んで引き止めた。
「あ、」
かあっと顔に血が昇る。
やばい、そう思ったとき……
ぽつり、と冷たいものが顔に触れた。
雨だ。
いつの間にか、丸いお月様も厚い雲の中に隠れてしまっている。
ぽつり、ぽつりと次々に降ってくる雫は、あっと言う間にザアーザアーという激しい雨に変わった。
「こっちだ!!」
そう言ってチナがオレの手を引いて走り出した。オレはその手を振り払おうとしたが、強く掴まれて、敵わなかった。
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