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何ができるかじゃない。
きっと俺にしかできない。


キク先輩が廊下の暗がりに消えていくのを見送り、俺は保健室に視線を移す。
障子戸からは小さな灯りが漏れるだけで他には何もない。

ライムが寝ている。
それだけだ。
それだけなのに。


「…何を、怯えてる」


指先が意図せず小さく震えているのが分かり眉をしかめた。
今まではどんなことがあってもライムの待つ部屋に戻れば安心できたのに。
今はライムに会うことがひたすら怖かった。
拒絶されたことが頭に根を張り不安を煽るが、さっき交わした誓いをもう破るのかと自分に強く言い聞かせる。

約束を違えるのか、キク先輩の思いを裏切るのか。
何よりライムのこと、諦めるのか。

震える右手を左手で勢いよく握る。
そうすればあっさりと震えは収まった。

当たり前だまだ入り口にしかいないんだから、全ては内側に渦巻いている。
こんなところで怯むな、俺を誰だと思ってる。

救ってみせるさ、と一言。
まるでそれを護符のように胸に秘めからりと戸に手をかけた。



薬のきつい匂いの中で、僅かに香る柔らかな彼の匂いと、近くなったライムの気配にくらりと眩暈がした。
一歩、二歩と踏みしめる様に進めば俺と彼とを遮るようにして立ちはだかる衝立。
この向こうに彼が寝ているのだと思い、こくりと唾を飲んだ。

音を立てないようにその場に静かにあぐらをかき、頭を働かせる。
どうする。
どうやってライムに信じてもらう。
きっと何を言っても彼は信じないだろう。
だけど彼は、確かに言ったんだ。

愛して、と。

意識を手放すその瞬間、きっとライムはきれぎれの意識の中でそう強く思ったからああ言ったのだろう。
追い込まれてやっと本心を出したんだ。

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