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『俺、もうライムを抱かない』


一瞬にして冷えた頭に流れる記憶。

それは紛れもなく、彼が僕を拒んだ、その瞬間で。

ああ、思いだした。
僕は彼に、いらないって。


「あ、あ」

「ライム」


がたがたと震える僕にザクロがゆっくりと腕を伸ばしてきた。

ああ、これ、さっきと一緒じゃないか。
まだザクロは僕を捨てようとしてるの。
逃げるように気を失った僕を追いかけて、その手で僕を掴んで、ねぇ、僕を君から捨てるの。

そんなに僕が嫌いになったの。
嫌だよザクロ。
ねぇ、捨てないでよ。


「嫌だっ…!!」


伸ばされたザクロの手が僕に触れる前に思い切り払った。

ばしっと意外に鋭い音がしてはっとザクロを見れば、彼はとても、辛そうに顔を歪めていて。
僕の心臓もぐしゃりと歪んだ気がした。

ああ、やってしまった。
きっと今僕は彼を怒らせてしまった。
どうしたらいい。

彼の機嫌を直すにはどうしたらいい。
捨てられないためには、彼の側にいるためには、どうすればいいの。

それでも僕には彼に手を伸ばすことはできなくて、ただひたすら自分の夜着の合わせを強く強く掴んでいた。


「ご、ごめんな、さ」

「………」

「ごめんなさいごめんなさい、た、叩いてしまって、ほんとに、ごめ」


そう謝っても何も言わないザクロが、怖くて。
どうしよう、怒らせてしまったのかも。

そういえばお寺にいた時、僧達に抵抗して誤って殴ってしまったことがあった。
その時は酷く殴られたのを覚えてる。
痛くて痛くて、眠れない程に。

ねえ、その手で君も僕を殴るの。
ねえ、言葉で謝っても君の機嫌は直らないの。
ザクロの機嫌が直らないと僕、また、居場所が。



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