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僕の手を引いて歩くのは誰。

柔らかい手だった、あの人?
それとも皺のある手だった、あの人?
それとも少し薬臭い手だった、あの人?


それとも。





ふわりと意識が浮かぶ。目を開けるといつもと違う年季の入った天井と、薬の匂いが漂う空気。

保健、室…。

ああ、キクさんの匂いがする。


嗅ぎ慣れたその匂いを肺一杯吸って長く長く息を吐いた。
ぼんやりした意識でどうして僕は保健室にいるんだろうと考える。
何にも思いだせない。
寝起きだからだろうか。

…ああ、なんでだろう。
今すごくキクさんに、ぎゅって、してほしいな。

だってなんだか心が酷く痛くって。
キクさんならきっと治してくれるから。
キクさんに抱きしめてもらえるとそれだけでほっとするから。
だから、抱きしめて、ほしいな。


「キク、さん…」


そう求めて呟いた言葉にぴくりと何かの気配が空気を揺らした。

緊張に似たそれを辿るようにゆらゆらと頭を傾ければ、遮るように立てられた衝立の向こうに人の気配。
頭がはっきりしなくて気付かなかったけどいつからいたのかな。

誰だろう。
でも酷く、安心する。

キクさん、かな。
そうだよ、僕が一緒にいて安心できるのなんて彼だけだもの。
…他には誰も、いないもの。

はっきりしない頭でそう考えて僕は体を少し起こしながらその誰かに声をかけた。


「キクさん…」

「…ライム」


返った声を聞いた瞬間、びくりと体が震える。
穏やかではあるがキクさんとは違うその声は。


「…ライム」


衝立の横から姿を表したのは、ザクロだった。

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