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昨日深く口付けた時にライムが怯えたことも、抱きたいと告げた時に目を見開いてみせたのも。
今までのライムとは打って変わった大胆な誘い方も、最中に名前を呼ばなかったのも笑顔が戻ってしまったのも、きっとそう、彼はあの時。


諦めたんだ。


俺のことを、諦めたんだ。
自分に酷いことをしたあいつらと、同じだと。
きっとそう思ったんだ。

そうだ、あの腕は。
いつだって軽い包容で回された彼の暖かな腕でさえ、あの時は一度だって、自分には触れなかったじゃないか。

そんな些細で大きなことになんで、どうして気付かなかったんだ。
本当は嫌だと、怖いと示していたんじゃないのか。
俺に気付いてほしかったんじゃないのか。

あれがきっと、ライムの精一杯の意思表示だった。

あれだけ側にいたのに。
あれだけ彼を見ていたのに。
あの笑顔が偽物だと気付いていたのに俺は、何を見てたんだ。

ライムはいつも、どんな気持ちで。
うなだれたまま動けないでいる俺にキク先輩は声をやや潜ませて話を続けた。


「…ライムは、母親から捨てられたから愛を知らない。一度は救われたと、愛をくれると思っていた寺の層に無体を強いられてから愛を信じない。人からの好意を疑ってる。好意を持っても最後には酷いことをされると思ってる。ライムの中で愛されることと必要とされることは同意だから。必要とされるから愛されると思ってるんだ」


『ザクロ君に必要とされたい』


そう不安と期待の入り混じった目で告げた幼い彼。
そんな彼を、必死だった彼を俺は。
あんな風に叫びだすまでライムを追い詰めたのも、忘れようとしていた過去を思いださせたのも。

全部俺だ。
その事実が鉛のように胸にたまり、息を吸うのもやっとだった。



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