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保健室から真っ直ぐに伸びた廊下。
その途中の壁に寄りかかって座る俺と、廊下の真ん中で正座をして俯くキク先輩。

端から見たらまるで俺にキク先輩が謝ってるように見えるのかな、なんてどうでもいいことを考えるのは今この現実から逃げているからだろうか。
だってそうだろう、そんな、だって、だって。


「ライム、が」


ライムは母親に捨てられ、稚児として生きていた、なんて。

信じられないというように目を見開いて何も言えずにいると、キク先輩は本当だよと告げた。
その顔は酷く悲しげに歪んでいる。


「…僕はその場を見ているわけじゃないから彼がどんな目にあっていたかは分からない。だけど彼を引き取った時に見た身体中にあった鬱血や殴られたような痣の後を見てどんな扱いだったかを想像するのは容易かった。…だからこそ、ライムがどんな気持ちだったかを想像するのは難しい」


あんな酷い目にあって毎日をどう生きていたのか、僕には想像できない。

重いキク先輩の声が暗闇に吸い込まれるように消える。
辺りは不気味な程静かなのに頭の中がごうごうと五月蝿くて、感情が全く追いつかなかった。

ぐるぐるとよく分からない感情が頭を駆け巡る中、浮かぶのはライムの笑顔と、信じられないと叫ぶ自分だけ。

ライムが。
いつも笑っていたライムが。
嘘だ。
そんな。

ぐるぐる、ぐるぐる。
目の前が歪んでいるような錯覚。

座っているのに足元が沈んでしまいそうな。
そして俺は気付いてしまった。

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