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じっと目を瞑り衝撃に構えていたが、いつまでたってもそれが来ない。
代わりにぽたり、と頬に何かが落ちる。
一体何かとゆっくりと目を開ければ。

キク先輩が、泣いていた。


「…せん、ぱ」

「どうして…」


ぽたりぽたり、大粒の涙を流してそう呟いた先輩からはもう殺気はなく、ただただ顔を歪ませて苦しそうに泣いていた。
振り上げたままの右手はぶるぶると震えていて、俺は訳も分からずただ呆然とキク先輩を見つめた。


「…君なら、大丈夫だと、思ったのに」

「は…」

「ザクロなら、ライムのこと、支えて、側にいてくれると、思ったから、だから僕は、何も言わなかったのに、」

「何言って、」

「やっと、ライムが、人を好きになって…ザクロを、好きになって、全部忘れて、幸せになれると思ったのに…っ」


どうして。

力なく垂らした右手を俺の胸に置きそのままうずくまるようにして、先輩は俺の上で嗚咽を漏らした。


どうして。
それは俺の台詞だ。

今のはどういうことだ。
キク先輩とライムは、付き合っていないのか?

それよりも、全て忘れる?
何を?


ライムは、何を抱えている?


「…どういう、ことですか、先輩」


呟いた声は、微かに震えていた。
俺の胸に頭をつけていた先輩が顔を上げる。

そこにあったのは、ただただ弟を心配する、優しい兄の瞳だった。


「…ライム、は」


そうして語られるライムの過去に、俺は息をするのも忘れた。



どうして、ライムのこと。
好きなのに、誰よりも何よりも大切なのに。


なんで信じて、やれなかったんだろう。



END.


120627

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