泣き声に似た羽音 1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・家族なんていなかった。
産んでくれた母と父はいたがそれは家族じゃなくて生きるために必要な人で、愛情をもらったことなどない。
その代わりに授かったのは人を騙し、疑い、自分が生き抜くための術。
だからね、ライム。
君はきっと知らないだろうけど、君を好きになったことで俺はとても救われていたんだよ。
「ライム!」
余程急いで走ってきたのだろう。
寝間着が乱れているのも気にせずに部屋に飛び込んで来たキク先輩は俺に抱きしめられているライムを見て目を見開いた。
あの後ライムの悲鳴を聞きつけたクラスの仲間が部屋に駆けつけ、俺に支えられて意識を失ったライムに場は騒然とした。
俺も取り乱していた中で、いち早く平静を取り戻した1人がキク先輩を呼びに行ったらしい。
おそらく教職員よりは六年の部屋の方が近いからという判断だろうが、俺は血相を変えて飛び込んで来たキク先輩に顔が歪むのを隠せなかった。
「ライム…どうして…!ザクロ、ライムをこっちに!」
びくんと時折大きく痙攣し苦しそうな呼吸と荒い息遣いを繰り返すライムを半ば俺から奪うようにして抱えると、キク先輩は胸元から紙を取り出した。
それをくしゃと丸めて空洞状態にしライムの鼻と口を覆うように被せ、ライムの肩を何度もさする。
「ライム…大丈夫、大丈夫だよ…。落ち着いて、ほら、ゆっくり吐いて…」
「う、ふぅ、う」
くぐもったライムの声が聞こえ、キク先輩は何度も大丈夫、大丈夫だよと言った。
ライムがゆらゆらと震える手を伸ばすと、キク先輩がその手を肩に回していた手ですかさずぎゅうと強く握る。
距離の縮まる二人。
そして途端に穏やかになったライムの顔を見て、心がどす黒くなった。
寄り添うその二人の姿は、まさに。
恋人同士、そのもので。
ライムはキク先輩を求めた。
俺じゃなく。
キク先輩を。
ぼんやりとした自分の意識の中、二人が酷く遠くにいるように見えた。
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