正しさと優しさの不一致 5


この世の終わりのような顔をしてライムが俺の袖を掴んだ。
不安気に揺する姿は帰り道の分からない幼子のようで、何故だか胸が痛んだ。

ライムは無理に笑おうとして顔全体をひきつらせどもりながら昨日の情事のことを話す。
気持ちよかったんでしょうとか何回イったじゃないとか。

明け透けな言葉を聞きたくなくてその腕を払おうとしたがライムの様子がおかしいことに気付いた。
必死で俺に縋っているような、何かを繋ぎとめたがっているような。
…どうしたんだ。

ライム、と呼びかけても聞きたくない言葉ばかりを吐かれて、終いにはどんなことでも我慢する、と言ったのだ。
我慢って、なんだ。

やっぱり我慢してたのか。
そんなに俺の気持ちは迷惑だったのか。
我慢してまで付き合う必要がどこにあった。

…それ以前に何をそんなに怯えているんだ。

話をしたくてライムの名前を強く呼べば、ライムは大袈裟な程体を揺らし慌てて俺から離れてただただごめんなさいと謝った。

その姿があまりにも小さくて、悲しくて…やっぱり、愛しくて。
無性に抱きしめたくなって。
でも伸ばした手を避けられ、ライムは壁際にずるずると逃げた。

最初に拒絶したのは俺だったのに、彼に拒絶されることに胸が締め付けられた。
でもさっきから様子がおかしいライムが気になって、なんとか話をしようと近づくもライムは逃げるように両手を降って小さくなる。
ますますおかしい。


「お願い、お願いします、どうかもう僕を捨てないで、おもちゃでいいから側において、」

「ライム…?待って、違う、落ち着いて」


捨てないで、いらないなんて、価値がないなんて、僕を見て。

譫言のように繰り返される言葉と、ライムの異様なほど震える体。
おかしい、このままではいけない。
ライムが、壊れる。


「ライム…っ、」


そう直感的に感じ、弱々しく振られる右手を掴んだ、瞬間。


「いやあああああああああっ!!!!」


耳をつんざくような悲鳴に思わず手を離した。
ふ、と力が抜け傾くライムの体を慌てて支え名前を何度も呼ぶ。

苦しそうに浅く呼吸を繰り返すライムにどうしたらいいか分からない。
返事の代わりに聞こえたのは。


「愛して…」


たったひとつの、胸が締め付けられるような、小さな願いで。


どうしてライムの抱えている闇に、気持ちに、必死な行動に気付かなかったのか。

俺は確かに、ライムに愛を誓ったはずだったのに。


END.


120516

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