Girls,be ambitious! | ナノ
お友達を紹介します


「ただいまー」

玄関を開けるなり、家の奥にむかってそう告げる。別に誰かの返事は期待していない。ずっと続けている癖のようなものだ。
父と瑞子さんが旅行から帰ってきて数日がたっていた。彼らは約束どおりお土産をいっぱい買ってきてくれて、そして私が三成さんのことをお兄ちゃんと呼ぶようになったことと、その呼び方を普通に受けいれているお兄ちゃんにひどく驚いているようだった。自分たちがいない間なにがあったんだ、と。
そんなことを考えながらローファーを脱いでいると、すでに見慣れた革靴の隣にオレンジ色のスニーカーが置いてあるのを発見した。お兄ちゃんのじゃない。数日前、引越し業者が持ってきた荷物の中にそんな物はなかったし、オレンジ色のスニーカーはお兄ちゃんにしてはチョイスが派手すぎる。
誰か友だちでも来ているんだろうか。

「あ」
「え」

茶とマルーンの二色で染められている派手な髪色。高い背。きりりとした眉毛とまっすぐに通った鼻筋、形のよい唇。お兄ちゃんとはまた違う種類の綺麗な顔立ちをしていると思った。そのような人が急に我が家のリビングから出てきたので私はしばし呆気にとられた。

「もしかして三成様の妹さん、ですか」
「そうです、けど。あなたは……」
「俺は島左近と言います。三成様のかわいい後輩で――」
「左近! 勝手に家をウロウロするなと言ったろうが!!」

思いっきり階段を駆けおりてくる足音が聞こえてきて、お兄ちゃんが手にしていた辞書のような分厚い本の角で島左近さんの頭を殴った。よく見ると背表紙に法医学と書いてあった。

「す、すんません! 声が聞こえたので、半兵衛様とお話ししてた妹さんかと思って……」
「言い訳など聞きたくない。それよりも貴様が勉強を教えてくれと頼むから仕方なく時間を割いてやったんじゃないか。さっさと戻れ」
「……はあい」

まるで駄々をこねて一歩も動かまいとする子どもを引っぱっていく親のように、お兄ちゃんが島さんの服の袖を引っぱって連行する。
私は慌てて追いかけると

「お兄ちゃん」
「なんだ」
「お茶入れようか。あとただいま」
「……好きにしろ」

薬缶に火をかけて、急須の中に茶葉を落とす。食器棚で湯のみを探しているとお兄ちゃんと島さんの会話がキッチンカウンター越しにリビングから聞こえてきた。

「これって自殺じゃないんですか」
「だから、法医学の視点で自殺に見せかけた他殺だと証明するのが今行っていることだろう。この場合、溢血点が結膜などにも見られるから――」

なんだかとても難しそうで、物騒な話をしているようである。後輩と言っていたから彼も医学生なのだろうか。大変だ。
お茶の入った湯のみをお盆に乗せてリビングの机まで運ぶ。ありがとうと島さんは笑ってから

「それにしても話に聞いてたよりも数倍かわいいっすね、妹さん。高校生? 名前は?」
「ええと、高校二年生です。石田詩織と言います」
「詩織ちゃんかあ。いきなりお兄さんができるとか聞かされて驚いたっしょ。しかもこんなおっかなそうな――」
「おい、左近! やる気がないなら帰ってもいいんだぞ。しかしそれではお前のこの提出しなければならないプリントは白紙のままだ。単位を落としてもいいのか」
「す、すんません」

これ以上邪魔をするのも嫌だったので、頑張ってくださいねと声をかけて私は自分の部屋にむかう。
そういえばお兄ちゃんと島さんの関係はなんだか不思議だなと思った。私は十分も二人と同じ空間にいなかったけれど、どんな化学変化が起こったらあの真面目を絵に描いたようなお兄ちゃんと、軽そうな性格(嫌な感じではなかった)の島さんとの間に交友が生まれるのか。
それでもお兄ちゃんの新しい一面を垣間見れた気がして嬉しくなった私は、スキップをするような感じで階段を上っていった。

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