Girls,be ambitious! | ナノ
事実は


「詩織ちゃんに新しくお母様ができるってことですよね。おめでとうございます」

鶴姫ちゃんがまるで自分のことみたいに嬉しそうに言ったので、私はサンドイッチに伸ばしていた手を中途半端に浮かせて、ううんと軽くうなった。
そこですかさず孫一が

「なんだか歯切れが悪いな」
「高校生にもなって特別浮かれることでもないかなあって思って」

今は昼休みの真っ最中だ。私は友人の鶴姫ちゃんと孫一とで机を囲みながら昼食をとっていた。いつもであればここに幼なじみであるかすがも加わっているのだが、今日は部活の練習があるとかで四限の終わりを告げるチャイムとともに体育館へと行ってしまった。大会が近いらしい。

「新しいお母様ってどんな方なんですか?」
「いや、写真見せてって頼んだけど、それじゃあおもしろくないだろって言われたから顔はまだ知らない」
「私はお前の父親が時々わからなくなるんだが」
「だろうね。私もそう思う」

少し前まで真剣な顔つきをしていたはずが、とたんに子どもみたいな笑顔を見せて冗談めいたことを言ってくるのだ。それが父という人間だった。今にして思えば、片親しかいないという子どもにとってのストレスを少しでも減らしてあげようという彼の考えだったのかもしれない。

「だけどお父さんも嬉しそうだったからよかったよ。私をたった一人でここまで育て上げてくれたからね。あとの人生は自分のために使ってほしいよ」
「新しい母親とはいつ会うんだ」
「学校が終わる時間にあわせて今日家に来てくれるらしいよ」
「楽しみですね」

それはどうかなあなどと笑いながら私はサンドイッチを手にとって食べた。濃厚なチーズと厚切りのハムがマヨネーズとあわさっていておいしかった。
*
自宅のマンションへ帰ってきて扉を開けると、知らない靴が二足玄関の隅に置かれているのが見えた。ストラップのついた濃い紫色のパンプスと高級そうな革靴だった。二足? おかしい。来るのは母親だけのはずじゃないのか。パンプスは彼女のだろうから、革靴の持ち主はいったい誰なんだ。
廊下にスクールバッグを置いて私も靴を脱ぎながらそんなことを考える。しかし答えなど自分からは一向に出てきてくれやしないのが真理の常なのだ。よって、私はいつも自ずから答えにたどりつくことを求められている。
緊張していることを悟られないよう「ただいま」と努めて普段どおり言ってリビングへ入った。四人がけのダイニングテーブルの右奥だけがぽっかりと空いていて、ほかの机の前に父親と女性と男性とが座っていた。

「ああ、おかえり」

私に気づいた父がこちらをむいて言った。つられるようにして残りの二人の首もぐるりと動く。
色の白い綺麗な人たちだと思った。ただ、女の人がにこやかな笑みを浮かべているのに対して、男の人のほうは無愛想な感じだった。銀色というまるで現実離れした色の髪を持っていた。顔の輪郭は長細く、特にまっすぐに通った鼻筋と薄い唇に目を惹かれた。百八十以上はあるだろうかと思われる彼の体では、我が家の小ぶりな椅子が窮屈そうに見えた。
そのとき女性がにわかに立ち上がると

「こんにちは。あなたが詩織さんね。突然のことでびっくりさせてしまったかもしれないけれど、私はあなたと本当の親子のように暮らしていきたいと思ってるわ。これからよろしくお願いしますね」

と言って深々と頭を下げた。

「こ、こちらこそよろしくお願いします」

思わず私も頭を下げる。
父親の再婚を祝っておきながら、正直シンデレラに出てくる意地悪な継母みたいな人がやってきたらどうしようかと不安だったのでほっとした。これならうまくやっていけそうだ。
しかし、それにしてもと思う。それにしても本当にあの男性は何者なんだ。彼が革靴の持ち主ではあろうが、私たちとの関係性がわからない。母親の兄弟にしては若すぎるし、だいたい年齢だって私とそんなに変わらないような気がする。
リビングの入り口に突っ立ったまま延々とそんなことを考えていたら

「瑞子さんと三成くんだよ。三成くんは瑞子さんの実の子どもなんだ。今は大学四年生だから詩織のお兄さんってことになるのかな」

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