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私たち、家を出ます


その報は、突然我が家にもたらされた。

「お、お兄ちゃん家出てっちゃうの!?」
「まあ、一人暮らしをするのだから、そういうことになるのだろう」

なんと、お兄ちゃんが家を出て行ってしまうことになった。大学の関係で。
お兄ちゃんが通うK大学は、××駅の最寄りにあるのだけれど、来年の春に新しいキャンパスがまた別の場所にできるらしい。それに伴って研究室に最新の設備やら機械やらがそろえられて、本来前例のないことらしいのだが、ぜひその環境の中でお兄ちゃんには学んでほしいとある教授の二人にキャンパスを移動するよう頼まれたらしい。
お兄ちゃんはその人たちをとても尊敬しているそうで(多分そのうちの一人は以前あった半兵衛さんなんだろうけれど)、断るなどという選択肢は最初からなく、二つ返事で了承したのだった。
しかし、ここで一つの問題が浮上した。
新しくできるキャンパスというのが、ちょっと辺鄙なところにあって最寄り駅から歩いて四十分ほどのところにあるというのだ。もちろん今後専用のバスが通るようになるという話はあるが、それだって本数が決して多いわけじゃない。
そこでお兄ちゃんが出したのは、大学の近くにアパートを借りて、一人暮らしをするというものだった。

「でも三成。あなた一人暮らしって、大丈夫なの? 家事、できないでしょう」

瑞子さんの凛とした声が、リビングに静かに響きわたる。
そう、そうなのだ。
お兄ちゃんは家事が壊滅的にできない。
お兄ちゃんがきっと一人暮らしなんかしたら最後、家じゅうが汚部屋と化して足の踏み場もなくなり、一日三食コンビニ弁当あるいは忙しさにかまかけてご飯を食べないことも出てくるかもしれない。それは、すべて国民は健康的で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する、という日本国憲法の条文に明らかに違反した生活だ。憲法違反だ。
私は旅行先で頭に浮かんだその考えを、再び思い出した。
しかし、それを理由にお兄ちゃんが教授さんたちの頼みを断るとは到底ありえないだろう。つまり、どうあってもお兄ちゃんの衣食住の面倒を見てくれる人がいる、というわけだ。けれど誰が?
いっそのこと一家丸ごと引っ越すという手もあるが、父と瑞子さんもそれぞれお仕事の関係で難しい。瑞子さんだけがお兄ちゃんについていく、というのならまだできないこともなかったけれど、それでは再婚する前に逆戻りだ。意味がない。
いや、待て。私は一つ大切なことを忘れてはいないか。なにも家族はお兄ちゃんとお父さんと瑞子さんだけじゃないのだ。
一つ深呼吸をする。そして、言った。

「私がお兄ちゃんと一緒に住むよ」

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