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あいつはかわいい私の妹


最近、母の再婚によって妹ができた。5歳下の高校二年生の妹だ。
母の口から、新しい父親ができると聞かされたときはそれほど驚かなかったものの(前々からなんとなく気づいていたため)、さすがに妹ができるというのには我が耳を疑った。
ありえん。妹になるとはいえ、昨日まで赤の他人だった異性と同じ屋根の下に暮らすなど。しかも女子高生ときた。
数年前の自分の高校時代や、時折街ですれ違うその生き物を思い出す。下着が見えそうなほど短いスカート。キンキンと頭に響く無駄に高い声。下品な言葉遣い。
もちろん私とて、そのような者たちばかりではなく、むしろ大半は真面目に勉学や部活動に打ちこんでいることをわかってはいたが、頭の痛いことに変わりはなかった。よもや母が前者のような娘を持った相手と結婚することはないだろうとは思ったものの、危惧せざるをえないのもまたたしかだった。もし姦しい女であったら。私の日常に大いなる支障が出はしまいか。
そしてやってきた顔あわせ当日。新しい父は前の父と似ても似つかない容姿をしてはいたが、時々冗談なのか本気なのかわからないことを言い出すところがそっくりだった。人の好み、というのは何年たっても変わらないようである。
娘は――詩織は後者だった。
常識的なスカート丈。落ちついた声。正しい日本語。
大人しそうな、かと言って人に流されるようなたちではなく、詩織は自分の主張はきっちりと通さねば気がすまぬような、芯の強さを持っていた。そこが好ましいと思った。これなら一緒に住んでもさし障りはなかろうと思った。ついでに母と同じぐらい料理がよかった。

「三成様、なんか最近楽しそうですね」
「……そうか」

横からふいに声をかけられて思考を止めた。
左近が立っていた。思えばこいつはとんでもなく騒がしく、おまけにいつも能天気で私を呆れさせている。そんなのだからレポートを提出期限ギリギリまで放置して、毎回泣きついてくることになるのだ。非常に私とは対極にある存在。左近と知りあってそれなりにたつが、未だになぜこいつとの関係が長く続いているのか自分でもよくわからない。

「そういえば詩織ちゃんとの旅行はどうだったんですか?」

そうだ。以前うっかり詩織と旅行の予定が書かれたスケジュールを左近の開いていたら、目ざとくそれを見つけたこいつに根掘り葉掘り聞かれたことがあったのだった。それはもうしつこいほどに。

「ああ、お前に土産を買ってきたんだが渡してなかったな。ほら、受け取れ」
「三成様が俺にお土産を!? ありがとうございます!! ええ、なにかなあなにかなあ」

私が犯人です、という文字が書かれたTシャツ。左近は己が紙袋から出した物をじっと凝視したのち、私に唖然とした表情をむけながら

「……三成様」
「なんだ」
「三成様と詩織ちゃんが行ったのは福井でしたよね」
「ああ」
「だったら羽二重餅とか水羊かんとか他にあるじゃないですか! これ福井感ゼロどころか、もうどこのお土産かもわかりませんよ!!」
「だが、洋服をプレゼントに送られるのは嫌じゃないだろう。前だって、私がいらない言って譲ってやった物を喜んで着てたじゃないか」
「それはそうですけど、さすがにこれはデザインに問題があるというか、部屋着くらいでしか使えませんよ。まあ、でも、三成様が俺に買ってきてくださったんですもんね。ありがとうございます!!」

その言葉を聞いて、一瞬「選んだのは詩織だ」と言いそうになった己の口を慌ててつぐんだ。左近はなにかと詩織のことを気にいっているようで、暇さえあれば私に色々と話題をふってくる。あんなにかわいい子だとは思わなかったとか、好きな人とかいるんでしょうかねとか、お休みの日はどうすごしているんですかとか。それがいちいち私はなぜか気に入らなかったのだった。もしかしたらこれが、世間一般で言われている「しすこん」というやつなのか。
だから不用意に詩織が選んだなどと口を滑らせてしまったら最後、狂喜乱舞するに違いない。こちらが張り倒したいと思うぐらい鬱陶しく。
ふと腕時計に目をやった。もうすぐ四時だ。
おもむろに立ち上がった私に対して、

「あれ、三成様どこか行くんですか」
「秀吉様と半兵衛様に呼ばれていてな。大切お話があるらしい」
「へええ。将来を嘱望される医者の卵は大変ですねえ」
「馬鹿を言え。お前も医者の卵だろうが。しっかりと勉強しておけ」
「はあーい」

適当極まりない返事をする左近の声を背中に聞きながら、研究室を出る。
そういえば今日の夕食は詩織が作ると言っていたか。そのことを思うと自然と口もとが緩んでくるのを感じて、慌てて表情を引きしめた。

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