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予感


「じゃあ、また明日ね」
「ああ。気をつけて帰れよ」

互いに手をふって別れる。
期末テストがようやく終わった。それで私は学校帰りに打ち上げと称して、かすがと一緒にこのあたりでは比較的都会の商業施設が密集している場所までやってきていた。
鶴姫ちゃんと孫一はいない。鶴姫ちゃんなんか絶対に喜んで「私も行きます!」と言いそうだが、別に用事があるらしい。おうち絡みのことかもしれない。彼女の家の神社は夏になると大きなお祭りを毎年行っているので、その準備とか。
孫一は、声をかけようとしたときすでに帰ってしまったあとだった。まあ、らしいと言えばらしいのだが。
パンケーキを食べ、カラオケに行き、ウィンドウショッピングをした。気づいたときには夕方の五時をすぎていて驚いた。
まだ明るい空の中をかすがと別れた私が一人で歩いていたら、

「あれ、詩織ちゃんじゃない?」
「島、さん」

うしろから聞いたことのある声がした。ふりむくと島さんが立っていた。
ホワイトシャツの上にワインレッド色のカーディガンを着て、黒いリブパンツを履いていた。

「俺のこと覚えててくれたんだね、嬉しいよ。今帰り?」
「あ、はい。島さんもおうちこの近くだったんですか」

彼は隣まで歩いてくると、首を左右にふりながら

「いや」
「え」
「今日は詩織ちゃんに会いたかったんだ」

私は憮然とした。
息をはくようにナンパする人だ。たしかに髪の毛なんか赤と茶色って派手すぎるし、お兄ちゃんに対する態度も後輩のそれじゃなかったけれど、こんなに軽薄な人だったとは。

「ごめんごめん、冗談だよ。近くに友達の家があって、その帰り道。だからそんな怖い顔しないで」

怖い顔ってどんな顔だろうと思いながら右手で頬に触れると、筋肉がこわばっているのか少し硬かった。
屈託なく笑う彼の顔を見ていたら、私は一つ納得をした。この人はよくも悪くもなにも考えていないのだ。だからお兄ちゃんはまったくタイプが違うし、おおよそ性格があいそうなわけでもないのに、島さんを好ましく思っているのかもしれないと思った。

「そうだ、送るよ」
「え、でもうちと駅とじゃ反対方向ですよ」
「詩織ちゃんをこんな時間に一人で家に返したら三成様に怒られちまう。この角右だったけ」
「あ、ええと、はい」

島さんがずんずん歩いていこうとするので、私は慌ててあとを追いかける形になる。逆じゃないか。
すっかり日が長くなったと思いながら視線を上げると、隣を歩いていた島さんの横顔が目に飛びこんできた。とても綺麗な顔立ちをしている。ただお兄ちゃんがモデル顔をしているのに対して、島さんはイケメンのバンドマンという感じがした。
そういえばなんだか最近は、妙に容姿のいい男の人とばかり知りあいになっている気がする。この間、お兄ちゃんの忘れ物を大学に渡しにいったときに会った竹中さんもそうだ。類は友を呼ぶってことなんだろうか。
などど私が考えていたとき、

「そういえば三成様と旅行に行くらしいね」
「え、なんで知ってるんですか」
「なんでって決まってるっしょ。聞いたから」
「聞いたってお兄ちゃんに?」
「三成様以外に誰がいると思うの」
「それは、まあ、そうなんですけど……」

私は信じられなかったのである。結果的に誘ってくれたのはお兄ちゃんのほうだったが、そもそも父と瑶子さんが誘ってくれたのが始めであって、本当はしょうがなく了承したんじゃないのかと思っていた。だけどもしそうだったら、わざわざお兄ちゃんが旅行に行くことを人に言うだろうか。相手が島さんだとしても、お兄ちゃんがプライベートをべらべらとしゃべるなんてあまり考えられない。
もしかしてお兄ちゃんも私との旅行を少なからず楽しみにしてくれているんだろうか。そう考えても許されるのだろうか。自惚れてもいいんだろうか。

「……ごめん」
「え」
「ちょっと嘘ついちゃった。本当は三成様がどこか嬉しそうにスケジュール帳を見てたから、なんだろうと思って聞いたんだよね。しつこいぐらい。そしたら詩織ちゃんと旅行に行くんだって教えてもらったんだ」

思わず真顔で島さんを見つめてしまった。どうしたのかと尋ねられて、夢中で首を左右にふる。
許されるんだ。自惚れていいんだ。
頬が熱くなっていく。心臓が早鐘を打ち始める。

「ああ、そうだ。今の話、本当は詩織ちゃんには言わないようにって三成様に口止めされてたんだった。内緒ね」

いたずらが成功した子どものような笑みを浮かべながら唇に自分の人さし指を当てる。多分わざと言ったんだろうなと思った。
旅行、楽しみだな。早く行きたいな。なんて修学旅行を楽しみに待っている小学生のような感想を抱いた。

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