アネモネ | ナノ
06


戦国時代にタイムスリップをして早一週間がたった。というのも変な話な気もするけれど。
この一週間私がなにをしていたのかといえば、ほとんど部屋から出ていない状況が続いている。
ずっと引きこもっていて、大半はごろごろしていると一日が過ぎているのである。あまりに突然すぎたためか逆に、家族との別れを惜しむことも私にはできないでいた。
石田様から自由を禁じられているのが、私が引きこもりになっている一番の理由である。だがたとえ許されていたとしても、私は必要以上に外に出なかっただろうと思う。
私の存在は一応巫女ということに城内ではなっている。
お城の人たちはみな、救世主でも現れたというように私に接してくれるのだ。私はそれに後ろめたさを感じてしまい、部屋から出る気が起きなかった。
それから外で顔を合わせるたびに、占いをしてくれだとか、なくし物の在り処を教えてくれだとかいう無茶振りをされたことも理由の一つにある。頼んだ本人たちは本当に信じているようで、悪気もないためにいっそう私は困ってしまったのだ。
障子から透けて届く朝日を見ながら、今日も引きこもり生活かとぼんやり考える。

「三成様ーっ! どこにいるんすかー? 俺が戻りましたよーっと」

と、不意に、鳥のさえずる静かな朝を破ってそんな声が聞こえてきた。
実は私の生活している部屋は、城の中でも奥の方に位置しており、決まった人しか出入りできないようになっている。しかしその声は、私が初めて聞くものだった。
誰だろうと思っているうちに、音はどんどん近づいてくる。やがて障子に人型の影ができるやいなや、いきなり開いた。
ダイレクトに飛びこんできた太陽の眩しさに目を細める。

「あれ、三成様……じゃ、ない」

ピンクと赤が基調の、体系ラインがよくわかるピッチリとした服に身を包んでいる。その胸元は大きく開いていた。髪型はツーブロックのようで、茶とマルーンの明るい色で染めてある。
彼は大きく口を開けて、唖然とした様子だった。飴色の瞳が食い入るように私を見つめていた。なんとなく柴犬に似ているかもしれないと思った。

「ど、どちら様ですか」

なかなか口を開こうとしないので私から切り出すと、彼はハッとした表情をさせてから「女の子がいる」と小さく呟いて突然こちらに向かってきた。

「君新しい子? 俺そんな話聞いてなかったんだけど!? 名前なんて言うの? 君みたいなかわいい子が石田軍に入ってくれるなんて俺マジ超嬉しい! ああ、俺はね、島さこ――」
「左近! 帰ったなら報告をしろと言っておいたではないか! どこで油を売っている!!」
「やっべ、すっかり忘れてた……三成様マジおこじゃん!」

私の肩を掴んでいた力が急に弱くなる。彼がゆっくり振り返ると、開け放たれた障子の前で石田様が仁王立ちで立っていた。

「左近、朝から騒々しいぞ。なにをしている。だいたい一番初めに、帰ったら言えと伝えておいただろうが」
「だって三成様どこにも見当たらなかったんですもん!」

左近と呼ばれた人は、立ち上がるやいなや石田様の方へ歩いていきながらそう言った。二人はそれからしばらくやり取りをしていたが、急に静かになったと思うと石田様がこちらを見ていた。

「お、おはようございます」

石田様と会うのは一週間ぶりだ。つまり、初めて顔を合わせたとき以来会っていないことになる。

「あ、そうだ三成様。この女の子って誰なんすか? 俺なにも知らないんすけど」

再び彼の視線が私に向けられる。しかし石田様は、その質問に答えることなく

「左近。刹那この女の相手をしてやれ」
「え、俺が、ですか」
「なんだ。私の命令が不満だと言いたいのか」
「いえいえ滅相もございませんですはい!」
「では己の職務を全うしろ。怠惰は豊臣には必要ない」

ばっさりと言い切った石田様はそのまま踵を返して、来た道を戻っていく。

「えと、じゃあ、遠乗りにでも行きますか?」

呆気にとられていた私に、彼は困ったように笑いつつ外を指さして言った。

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