アネモネ | ナノ
03


無事セーラー服に着替えることのできた私は、先ほどの仲居さんに連れられて長い廊下を歩いていた。

「大谷様、お待たせいたしました」
「やれ来たか」

仲居さんが襖に向かって言うと、そう答えが返ってきた。
声の主は蝶々さんである。そうか、彼の名前は大谷というのか。

「それでは詩織様、後は大谷様に」
「はあ」

仲居さんはこれより先に進めないらしく、踵を返してすぐに奥へと戻ってしまった。
これからどうすればいいのか困っていると

「どうした。入らぬのか」
「お、お邪魔します」

襖を開けた先には、やはり和室が待っていた。それでも私がいた部屋と比べればそこはかなり小ぢんまりとしていて、床に畳が敷いてあるだけの簡素な作りだ。
大谷様は相変わらず浮いている。

「大谷様とおっしゃるんですか」
「そうよな」
「あの、ここは一体どこなんですか」
「それも含めて主に話がある。ついて来やれ」

すっと大谷様が襖を開くと、またそこには長い廊下が伸びていた。
後ろをついて歩きながら今までのことを考えてみる。
最初に目が覚めたときは山の中にいて、二度目は和室だった。それからなぜか私の地位が上がっている。仲居さんにはセーラー服とスカーフが通じなかった。
ダメだ。考えれば考えるほど謎が深まっていくような気がする。
しかし、まあそれでも、とは思う。命の心配は今のところなさそうだ。かどわかした相手を様と呼んだり、高価な着物を着せようなどとする厚待遇を、私はこれまでに一度も聞いたことがない。
最悪死ななければいい。人間生きていればなんとかなるだろう。多分。
大襖の前で大谷様は神輿を止めた。襖には大量の藤の花が描かれている。
彼は「連れてきたぞ」と言っただけで、相手の返事もなにもないままにさっさと襖を開けて中に入っていってしまった。

「ま、待ってください……!」

心の準備もさせてくれないのかと、内心毒づきながらその背中を追う。
これからどんな未来が待っているとも知らずに。

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