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五月拍手ss


五月拍手ss
【テーマ:島左近の誕生日】



五月五日はこどもの日、と同時に左近くんの誕生日でもある。
ここはとある大学の研究所の一室だ。そして今日は五月四日だ。本来ならばゴールデンウイークの真っ最中だというのになぜ私はこんなところにいるのだろう。
私はそこまで考えて、壁にかかっていたカレンダーからその元凶となった三成くんへと視線を移した。いや、元凶というと少々聞こえが悪いのかもしれないが、とにかく彼に呼び出された私は、一人暮らしをしているアパートの最寄り駅から地下鉄に乗って大学にやってきたのだった。
三成くんはこの研究室でなにやらとても難しいことをやっている、らしい。こんなふうにぼんやりとしか言えないのは私が生粋の文系人間で、ある物質とある物質から新しいものができるだろうとか私の体には今どれくらいの重力がかかっているのだろうとかこの世には素数がいくつあるのだろうとか、とにかくそういう理科だったり数学だったりに関する知識がまったく欠如しているからだ。

「ねえ、三成くん」
「……なんだ」
「明日って左近くんの誕生日じゃない。なにかしてあげるの?」

私が改まってそう聞くとコーヒーがなみなみと注がれているマグカップに口をつけながら、短く冷蔵庫とだけ言った。

「冷蔵庫?」
「いいから開けてみろ」

冷蔵庫、ってなんだ。脳内に疑問符だけが湧き上がるなか、それでも私は研究室の隅にぽつんと忘れさられたように置いてあるそれへと近づいていった。上にはうっすらとほこりが積もっている。
私は一思いにそれを開けた。
はたして中には、駅前のケーキ屋さんの白い箱とシャンパンが入っていた。まさかの予測もしていなかったことだけに、私は中を覗きこんだままうしろの三成くんへ尋ねる。

「なに、これ。どうしたの」
「……今から一時間後にここへ来るよう左近に連絡してある」
「つまり、左近くんの誕生日パーティーをするってことだよね、ここで。だから私を呼びだしたの?」
「そういうことだ。一日早いが、まあ問題はないだろう。さあ、時間がないからな。早々に準備を開始するぞ」
*
かくして私たちは慌ただしく机の上を片づけはじめたり近くの百均で紙コップとか紙皿を買ってきたりした。
ちょうど用意が終わったところでノック音が二回して、私たちはこれまた百均で調達したクラッカーを持って扉の前で待機をした。そして、それが開かれた瞬間

「左近くん!」
「左近」

「誕生日おめでとう!!」という私たちの重なった声が、目を丸くして驚いている左近くんに降りそそぐのだった。



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