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四月拍手ss


四月拍手ss
【テーマ:お花見】



櫻の樹の下には屍体が埋まってゐる! と、ある小説家は言った。

「綺麗だね、桜」
「昼間に見るのとはまた違った趣があるな」

近所の小さな公園には、ちょうどその中央あたりに大きな桜の木が一本立っている。夜の闇に桜の桃色が溶けあい、どこか怪しいような、妖艶な美しさを感じて深い深いため息が出た。
けれどそこにあるのは美しさだけではない。そこには美しさと隣りあうようにして醜さが、死という名の醜くて恐るべきものが存在しているのだ。
それらは白昼にはないものだった。昼の桜には、ただいきいきとした生だけがある。
夜だけがいつもそうだ。私たちを惑わし、翻弄し、恐怖を植えつける。

「そういえば桜の木の下にはね、死体が埋まってるんだよ。知ってた?」
「死体だと? なんだそれは」
「ごめんごめん冗談だって。小説の話。天下の理系男子様には通じなかったかな」

ぼうっと宵闇の中に三成くんの青白い顔と白銀の髪が浮かんでいる。ときおり風に吹かれて花びらが彼の背後をはらはらと落ちていく様子は、いつも以上に私の目に儚く映った。
かの小説家はかつて言った。桜の木の下には死体があって、桜がこんなに綺麗なのは死体が埋まっているからだと。今、桜を形作っている花弁も蕊もすべては維管束を夢のようにあがっていった死体の体液によって形成されたものだと。
私は今ならそれがわかるような気がする。そうでもしないと、私も不安と恐ろしさで押しつぶされてしまいそうだった。
まだ肌寒さを感じる春先の風が頬をなぜていく。



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