main | ナノ
三月拍手ss


三月拍手ss
【テーマ:ホワイトデー】



約束していたホワイトデーの日がやってきた。ちょうど学校が春休みに入っていた期間だったので、三成先輩が私の家にやってくることになっている。

「どうぞ、三成先輩」
「……邪魔する」

私が彼の家に行くことは何度かあったけれど、彼が私の家を訪問してくれるのは初めてだ。いつも綺麗に靴が揃えられて花なんか飾ってある玄関や、広くて長い廊下、ピカピカの家具に囲まれた家に住んでいる三成先輩に、年季の入った私の家を案内するのは少し恥ずかしい。

「紅茶でいいですか。砂糖は――三成先輩はいらなかったですね」
「飲み物などいいから、これを受け取れ」

リビングと繋がっているキッチンへ行こうとするのを遮るようにして、三成先輩は小さな紙袋を私の目の前に差し出してきた。ありがとうございますと言ってから手に取って中身を出してみると、それはピンク一色のごくシンプルなパッケージをしていた。中央に金字で会社の名前と馬に乗った髪の長い女の人の絵が描いてある。

「開けてもいいですか?」
「好きにしろ」

そういえばホワイトデーに送るお菓子にはそれぞれ意味があるという。例えばマシュマロだったら「あなたが嫌い」とかキャンディだったら「あなたが好きです」とからしい。
蓋を開けると中にはクッキーが入っていた。苺とチョコの二種類の味がある。
私は記憶を探る。たしかクッキーにも意味があったはずだ。なんだったか。

「あなたは、友達……?」
「友達? なんの話だ」
「ああ、実はホワイトデーにプレゼントするお菓子には意味があって。クッキーは、あなたは友達って意味なんですよ」

なにげなく言ったことだった。失礼かもしれないけれど三成先輩がそういう話に疎いのはわかっているので、きっと彼は私の好物を送ってくれようとしただけなのだと私は知っている。いまさらどうこう思うところもない
しかし、その瞬間三成先輩の表情は硬くなってしまったのだった。むしろ私としては「くだらない」と言って一蹴されてしまうだろうと思っていたのに。

「……すまない。その、まったく知らなかったんだ。だから決してお前の気持ちに友達で返すつもりはない。私はお前を愛している」

三成先輩の言葉はとてもまっすぐだ。こちらにまっすぐ届いて、すとんと心の中に落ちてくる。それが私のために紡がれた言葉だったりするとなおさら嬉しい。

「わかってますよ、そんなこと。ちゃんと」



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -