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二月拍手ss


二月拍手ss
【テーマ:バレンタイン】



「詩織ちゃん!」
「ああ、島先輩。こんにちは」

うしろから聞き覚えのある声がして振り向くと島先輩が立っていた。彼は私が片手に持っていた小さなピンク色の紙袋を興味深そうに見ながら

「それ三成様へのチョコレート?」

と言った。

「はい、そうですよ」
「へええ。いいなあ、三成様。俺にはないんすか?」

島先輩がおもむろに右手を差し出してくる。その表情をうかがうと飴色の瞳が弧を描いていた。
私はすっかり困ってしまって無意識にスカートの中のポケットに手を突っこんでいた。私が持っているのは三成先輩にプレゼントしようと思っていたこのチョコレートと、あとは友人たちが手作りしたクッキーやマフィンだけである。
しかしそのとき、スカートの中に入れていた手に硬い感触を得た。不思議に思って取り出してみるとそれはイチゴ味のチロルチョコであった。そういえば、これもついでにと言ってクッキーをくれた友人が一緒に渡してくれたのだ。

「これでよかったらどうぞ。もらいものですけど」
「詩織ちゃん。他の人からもらったものは横流ししちゃだめだよ。冗談だから。それに本当にそんなことしたら俺が三成様に嫉妬で殺されちまう」

私がチョコレートを島先輩の手に握らせようとすると、彼はウサギのように素早い動作で右手を引いた。真顔になっている。

「はあ、そうですか」
「三成様詩織ちゃん絡みになるとほんっとおっかねえからさあ。じゃあ引きとめてごめんね。行っておいで。今なら生徒会室にいると思うよ」
「ありがとうございます。それではまた」
*
島先輩の教えてくれたとおり生徒会室へ行くと、たしかに三成先輩がいた。彼は椅子に座って分厚い資料と向き合っている。控えめに声をかけるとゆっくりと顔を上げてこちらを見た。

「三成先輩へバレンタインのチョコレートです。どうぞ」
「…………」
「どうかしましたか?」
「他の者にはやってはいないだろうな」
「島先輩が」
「左近だと!? おのれ残滅してやる!」
「島先輩がちょうだいと言ったので友人からもらったチロルチョコあげようとしたんですけど、横流しはダメだって怒られちゃいました」

ガタン、と音を立てて急に三成先輩が椅子から立ち上がった。そしてツカツカと足音をさせて私の方に近づいてくる。

「貴様は本当に……!」

両肩を掴まれてまるで迫るようにして。鬼のような形相が近い。島先輩の言っていたことは本当だったなと、どこか頭の片隅でぼんやりと思った。

「安心してくださいよ。本命は三成先輩だけですって。手作りだから味は保証できないけど、気持ちはいっぱい詰めこんでおいたんですよ」
「……フン。いいからさっさと寄こせ」
「はいはい。ああ、ホワイトデー期待してますからね。三成先輩」



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