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十月拍手ss


十月拍手ss
【テーマ:命日】



石田三成が死んだ。
そのことを私が知ったのは400年の時をへてからだった。
私の覚えている歴史上の記憶と社会科の授業で習ったものは時々違ってはいたけれど、それでも結果はすべて同じだった。だからきっと彼も六条河原で処刑されたのだ。
*
「もしかして、詩織かい?」

人もまばらな昼下がりの鈍行列車の中、自分の名前を呼ばれて顔を上げた私はつり革に掴まってこちらをまじまじと覗きこんでいた人と目があった。男性、なんだろうか。やけに華奢な体つきと綺麗な顔をしている。こんな人知り合いにいただろうかと思いながら、しかし銀の髪から覗く眼鏡の下の菫色の瞳にどこか覚えがあると感じていたら

「はん、べえ、さま」
「やっぱり。400年ぶり、かな」

嘘、という言葉が口から漏れる。こんなにも彼に近しい人に会えたのは初めてだった。

「仮面じゃなくて眼鏡だったので最初は誰だかわかりませんでした」
「君も雰囲気が少し違っていたから人違いかもしれないと思ったよ。髪は今はもう伸ばしてはいないんだね」
「あんな非常識な長さはもうこりごりですよ」

電車が止まると、私たちはどちらからともなくもう少し話をしたいと言って駅前の喫茶店に入った。

「単刀直入に言う。三成君の居場所を教えてほしい」

私はその質問に静かに首を横にふる。そして私は彼もまた三成様に会えていないのだと知った。

「そうか……君のところにもいないのか」
「そうですね。というよりも豊臣の人間に会ったのはこれが初めてなんです。秀吉様はお元気ですか」
「うん、今は秀吉と二人で会社を経営してるんだ。大谷くんもいるよ」
「大谷様も。私のところは伊達や真田や長曾我部といった感じで。いいですね、いつかまたお会いしたいです」

半兵衛様がカップを持ち上げて口をつける。そして彼は小さくためいきをつきながら、言った。

「僕も時間の許すかぎり三成君を探している。でもその足跡さえ掴めたことがない」
「……三成様はきっとどこかで生きているはずです。だって三成様が私を一人で置いて行くはずない。私は今でも夫を信じている」

少し口調が強めになってしまったかもしれない。しかし半兵衛様は気を悪くすることはなくそうだったねと言った。
*
それがもう一年前のできごとになろうとしている。やはり私は今でも彼には会えないでいた。鬱々とした不安に襲われながら通学路を歩いているとふいにうしろから声をかけられた。

「Good morning」
「あなたですか。私に話しかけてくるなんて珍しいですね」
「昨日お前学校来てたか?」

会話が噛みあっていない。私は半ば混乱しつつ

「ちょっと体調が悪くて家で寝ていました」
「じゃあやっぱり知らねーんだな」

伊達政宗が突然ニヤニヤした顔をさせる。なんだか少し腹が立った。

「知らないってなにがですか」
「自分の教室に行ったらわかるんじゃねーか」

伊達政宗が走り出そうとしたので、待ってと呼びかけたのだが無視をされる。結局私は不思議に思って学校への道を歩くしかなかった。
*
教室にの前に着いて扉を開けたとたん出てきた人とぶつかった。ちょうど私の顔の位置に相手の胸があって、こんなに背の高い人うちのクラスにいただろうかと思って顔を上げた瞬間心臓が止まる錯覚を覚えた。

「どう、して……」

腕が伸びてくる。腰まで回されて彼との距離がなくなったとき、ふわりとなつかしい香りがした。

「すまない。来るのが遅くなってしまった」
「……ずっと待ってました。400年前からずっと。おかえりなさい、三成様」



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