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八月拍手ss


八月拍手ss
【テーマ:盛夏】



真夏の太陽が地面をジリジリと焦がしている。青々とした葉を茂らせた遠くの木々たちが
陽炎によってゆらゆら揺れていた。
うだるような暑さの中を歩いていると、ふと水音が聞こえた。そちらに顔を向ければ、水飲み場で蛇口から直接水を飲んでいる人が見えた。
大きな背を丸めて窮屈そうに水を飲んでいる。銀色の髪が太陽の光に照らされて、キラキラと光っていた。
口の端から漏れた水がそのまま顎を伝って喉仏へと滑り落ちて行く。ひどく色気があると思う。

「石田くん」

名前を呼ぶと彼が振り返る。

「暑いね」
「そうだな」

水が涼しげな音を立てながら蛇口から吐き出されている。石田くんはそれを律儀に止めると

「お前はもう帰るのか」
「うん。今日はもう終わり」

私はそう言って画材の入った鞄を軽く持ち上げた。

「石田くんは?」
「大会が近いからな。もう少し残っていく」
「そうなんだ。そういえば私、剣道の試合って見たことないや」

石田くんは、剣道強豪校である我が校の中でも、一番優秀な成績を収めていると言われている選手だ。私は彼の竹刀捌きを見たことがないけれど、それはそれは美しく見事なものらしい。

「お前もこればいい」
「え、いいの」
「野田が来てくれるなら、私もよりいっそう励むことができるような思いがするのだ」

石田くんの切れ長の目が眩しそうに細められる。
その瞬間、もしかしたら私が想像していた以上に彼は私のことを好いてくれているのかもしれないと、私は漠然と思った。私は一呼吸置いてから

「わかった。じゃあ応援行かせてね。約束するよ」

額から流れ出た汗が静かに頬をなぞっていった。



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