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七月拍手ss


七月拍手ss
【テーマ:夏の始まり】



校長先生の長い話が終わった。通知表が返ってきた。
夏休みが始まる。
図書委員だった私は、終業式のあと夏季休暇中の当番の割り振りの話があって、教室に戻ると友人たちはすでに帰ってしまっていた。白状だなあと思いながら、しょうがないのでアイスでも食べながら帰ろうと考えていると、いきなり先ほど開けたばかりの扉から誰かが入ってきた。私以外にも残っている人がいたのか。
一番に見えたのは前髪の先っぽで、続いて全身が見えてきた。夏服の袖から出た長い腕がひどく白い。
彼は自分の席まで静かに歩いていった。そして机の中にその白い腕を突っ込むと、がさごそと探り始める。
彼の席はちょうど窓際にあって、日に日に濃くなってゆく緑が見える。重なる葉の隙間から夏日が漏れていて眩しさに少し目を細めたくなった。

「石田くんは夏休みどうするの」

呼びかけると、振り向く彼の銀髪が遠心力でふわりと浮いた。腕は机の中に入れたままだ。

「祖父母の家にいく」

石田くんの声は涼やかで凛とした声だ。彼が喋るだけで、外界の温度が下がるような気がする。

「そっか。いいね、楽しそう」
「お前はどうするんだ」
「私? そうだなあ……夏休みって無計画に過ごしてるといつのまにか終わってるから、こういうのってちゃんと考えておかなきゃって思うんだけどやっぱりわかんないや」

毎年夏休みが近づいてくるたび、まるで小さな子供がおもちゃ箱を開ける前のようなわくわくした気持ちになる。そしてそれと同時に、途方に暮れたような気持ちにもなるのだ。
石田くんの腕が机から抜ける。黒い革張りのものが手に握られていていて、ああ定期入れだ、と思った。
私は石田くんに手を振りながら

「じゃあまた夏休みが終ったら会おうね。ばいばい」

と言った。彼も小さくそれに返してくれる。
教室を出ると蝉の大合唱が廊下を満たしていた。



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