愛されるという事に、私はてんで免疫がない。良く言えば知らないだけ、酷く言えば悲惨なだけ。逆に愛するという事に、私はかなり執着している。良く言えば慈愛めいた、酷く言えば独善めいた。 それは愛という事なのかという問い。 「ここで死ぬとは、」 まるで想像出来なかった、なんておかしそうに笑う。いつだって不機嫌で無愛想で不幸せ、そんな貴方が好きなのに。 どうして今の状況下でこの人は、まるで見せた事のない笑みを浮かべるの? 愛する人一人捕まえる事の出来ない手を、思ったよりかなり温かい首筋にそっと添えているだけなのに、私は今ならばきっとこの人の首を絞める事が出来た。 ずっと昔の錆び付いた初恋に魅せられ縛られ、全てを投げ出して生きて行くこの人に、どうして浅はかな恋なんてしたのだろう。最早その目は濁っているのだ。今尚彼の瞳の中でその色は何重にも重ねられて、網膜に残像を焼き付けている。 苦しかったと。悲しかったと。寂しかったと。そう言えたら何よりもいいだろうに。けれどそれを赦さなかったのは何よりこの自分自身であって、私は誰にもその責任を負わせる事は出来ない。 ああでももしそれが出来るのなら、とっくに私は彼を独善的なのを知らずに悲惨に慈愛をもって愛しているか。 この人が死んだ後、どうしようか。 愛という行為をただひたすら追求する脳裏の裏側でぼんやり考えた。 きっと殺人鬼なんて馬鹿げた生き物は、こんな馬鹿げた考えなんてしないのに。 私?私は違う、私は愛という事をしているだけ。求めただけで。その後は? 「おい」 ああ、いつも冷たく私を呼ぶ声だ。 私を愛さない癖に私に愛される声だ。 もう聞きたくない聞きたくない聞きたくないああでもやっぱり滲み出るのだ。決して私を愛してなんかくれない濁った瞳から、愛された彼女が微笑みかける。 うるさいうるさいうるさい!お前なんかお前なんかお前なんか ! 「──おい」 愛するという事に、私はてんで免疫がない。良く言えば知らないだけ、酷く言えば悲惨なだけ。逆に愛されるという事に、私はかなり執着している。良く言えば慈愛めいた、酷く言えば独善めいた。 それは愛という事なのかという問い。 だって、全く理解が出来ない。 「そんな力ではまるで死なんぞ」 冷や汗たっぷりの泣きじゃくった顔で先生を見た。相変わらず下手くそな笑い方。震える手はまでも首筋を捕らえたままなのに、それがとても苦しかった。 好きですと伝えられるまで、私は明日もまた、永遠の中に生きる人を愛したこの人を、殺しに来るのだろう。 死葬 (私の死体と共に、どうかこの熱情も燃やしてください) ×
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