「ルイ、貴方最近変じゃない??」
「え??」
ルイはまるで出し抜かれたリスのような顔をしたが、リリーはずいとルイに近寄り、彼女の顔をまじまじと見た。
「…リーマスが言ってたのよ。
この頃ルイってば、レポートを終わらせる時間が嫌に短くなった。
おまけに最近すぐに一人になろうとするし…」
怪訝そうにルイを見ながら言っていたリリーの眉がひゅっと下がり、とても悲しそうな目付きになる。
「…まさか、何か悩み事でもあるの??
私に言えないくらいの事なの??」
「ち…違うよ!!」
ルイがリリーに向かって叫んだ時だ。
「何を話してるんだい??」
ジェームズがひょっこりと突然顔を出したので、リリーとルイは思わず飛び退いてしまった。
見るとジェームズは泥だらけのクィディッチの練習着を着ていた。
練習を終えた帰りに、ルイ達を見つけたのだろう。
見学していたのか、シリウスとリーマス、ピーターまでもが一緒にいた。
「悩みって何??ルイ。僕達で良かったら聞いてあげるよ。」
「そうだ。悩み事を溜め込むのは体に悪いぞ。」
シリウスとリーマスが口々にそういう。
しかしその心配は、何故かやれやれと首を振るジェームズに遮られた。
「全く…馬鹿だなぁ君達は!!
僕ら男子にすら言えないような悩み事をここで言うはずがないだろう??
女の子には色々悩みがつき物なんだよ!!例えば体重が増えたとか先生にセクハラされたとか自分の好きな人に中々想いを伝えられないだとか…」
「(一番最後だけは良かったけど)女の子の前でそんなこと言うなんて最低も甚だしいわよこのドアホメガネ!!」
リリーの右ストレートがジェームズの脇腹に直撃する。
「で…でももし本当だったら…」
「そんなくだんないことじゃないに決まってるでしょう!!ねぇ!?」
「う…うん…」
往復ビンタを数回喰らい、心なしか幸福そうな笑顔を浮かべ、気を失っているジェームズを片手にキッとルイへと振り返ったリリーの剣幕に押され、ルイも思わずうなずく。
「で、でもさ…ルイもあんまり聞かれたくなさそうだし…
(ジェームズも虫の息だし)リリーも止めたら…?!」
ルイに視線で助けを求められたピーターはおっかなびっくりでリリーに声をかけた。
リリーはピーターが珍しく話しかけてきたことに驚いてはいたが、彼の斜め後ろで首がおかしくなりそうな位縦に振っているルイを見ると、自分の態度に多少は嫌悪感を抱いたのか、『分かったわ』と言ってジェームズをパッと手放した。
「わ、私…先に寮に戻るね…」
リリーに申し訳なく思いながらも、ルイは引きつった笑みを浮かべながらそこを立ち去ろうとした。
「「……!!ルイ!!」」
誰かがルイの名前を呼んだと同時に、ルイは急に押し寄せてきた衝撃に支えられ、階段から真っ逆さまに落ちた。
リリーが苦痛に満ちた悲鳴でルイの名を呼んだ。ルイはぼんやりとした頭で、今日見るポケットの中の手帳のページには、一体何が書いてあるのだろう??と考えた。
目の前が…真っ暗になった。
『…ホワティエ・ルイ。』
ルイの肩がピクンと揺れた。
荒い息遣いはそのままに、ルイはのろのろと椅子へと向かう。
注がれる視線。緑とグレーのネクタイを絞めた人達が、ジロジロとルイを見ている。
傍らに立っていた、眼鏡をかけた先生の手から渡されたのは、くたびれた黒いトンガリ帽子。
羞恥心と劣等感から逃れようと目の辺りまで被った直後、頭の中に低く深みのある声が響いてきた。
『!…君は…あのホワティエ家の子かい??』
『…??何で…知ってるの…??』
『君のお母さんとお父さんも、ホグワーツ生なのは知ってるだろう??二人共、スリザリンだったよ。』
『……私も…スリザリンに入れられちゃうの…??』
『そんなことはないよ。現にお前の叔父さんはハッフルパフだったし、君のお兄さんだってグリフィンドールだった…
私は家柄に捕われて寮を決めてはいないよ。…ただ…』
『ただ…??』
帽子が諭すように言った言葉が今、頭の中に蘇る。
だがその時のルイは、心細さを紛らわしたい一身で兄の寮に入りたくて、帽子の誘いを断り、グリフィンドールの席へと走った。
君の血には、闇の魔術が最も色濃く受け継がれている。
…君の両親や叔父や…お兄さんよりも。
ルイ…私は初めて、恐怖を覚えたよ。
君の純粋な心が…いつか他人を傷付けてしまうんじゃないかと…今、とても恐れている。
だからこそ君にスリザリンを勧めたんだ。
スリザリンの銀色の蛇が、君を招き入れたがっているような気がするから…
(お祖父ちゃんの事だったんだろうな…)
ルイはガンガンとまだ鈍く痛む頭を押さえ、消毒液の匂いが充満した医務室にいることに気付き、ひとつため息を漏らした。
左目の上には微かな圧迫感があって、頭痛みたいなものが動いている。どうやら落ちた時に石畳で額を切った様だった。
ホグワーツの中でのホワティエ家の評判は比較的良い。
スリザリンだったにも関わらず、常に他寮の人と仲良くしていた、ルイの母と父のお陰だ。
数年前にホグワーツを首席で卒業したルイの兄も、グリフィンドールだけではなく、何とスリザリンの一部の人間にも好かれていたらしい。
ただ一人…ルイの祖父を除いては。
ルイは、祖父の顔を知らない。
彼は小さい頃から闇の魔術に興味があったらしく、暇さえあれば他寮のホグワーツ生に呪いをかけたり、勝手に『禁書』の棚に出入りするなど、かなりの問題児だったらしい。
今はどこに居るかも、生きているかもわからない。
聞いても兄は黙るだけなので、いつしか聞いてはいけないと思いこんでいたのもある。
噂に寄れば、また闇の魔術に手を染めていると聞いたが、ルイはそれを信じてはいなかった。
小さな頃から闇の魔術に興味があった、祖父。
もしかしたら…自分にもそんな面があるのだろうか??
闇に堕ちてしまうほどの…何かが。
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