ゴトン、ゴトン、ゴトン―…
規則的な振動に、いつの間にか舟を漕いでいたシリウスはふと目を開けた。
向かい側の席ではルイがすやすやと眠っている。その寝顔を見て、思わずふっと笑みが溢れた。
後ろの方のコンパートメントだった為に、誰も訪ねて来なかったようだ。
(…そうだ…俺…
ルイが寝てからすぐに眠くなって…)
いくらシリウスでも、ホグワーツは自分の家よりも心が安らぐ。昨日その嬉しさのあまり、良く眠れなかったのだった。
(…そういえば…)
ふにゃ…と寝言を言ったルイを微笑ましい気持で見ていたシリウスは、ふと駅で自分の邪魔をしてきたルイの兄を思い出した。
ルイには、両親が居ない。
『闇祓い』であったルイの両親は、自分達の捕獲目標である魔法使いを捕えようとして…逆に『死の呪文』を唱えられ、命を落としてしまった。
ルイの兄…マーク・ホワティエは、あれでも魔法省で働いている。
自分達の両親の命を奪った魔法使いを、まだ逃走中で捕まっていないその魔法使いを、捕まえる為に。
自分とは違い、優秀で正義感溢れる自慢の兄なのだと、2年生の時誇らしげに言っていたルイの顔が目に浮かんだ。
改めて、目の前の彼女を見た。
まるで子供のようなあどけない寝顔だ。
…シリウスは幼いときに何度か、ルイと会ったことがある。
勿論、それはブラック家だけの秘密だったが。
ルイとシリウスの両親は友好関係があった。
どちらかの家でパーティーが開かれると、必ず呼ばれた。
ルイの笑顔は、いつも冷戦状態のように冷たいシリウスの家族関係を緩ませてくれた。
同い年の癖にどこか頼りなくて、まるで兄のように自分を慕ってくれるルイと遊ぶのは、シリウスの心安らぐ時間だった。
けれど、それは陽炎の命のように儚く消えた。
シリウスの、小さかったルイの最後の記憶。
それは、
ルイの両親の葬式の日。
純白の花が、二つの墓石の前に添えられている。
みんなが押し黙り、音を忘れたかのように静まり返った世界の中、
ルイの、悲鳴にも似た泣き声が、
ただひたすらに響いていた記憶は、
血のように鮮明だった。
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