happy days | ナノ


□happy days LOS5
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「(今度は、私が。)」

涙をボロボロ零して、鼻の骨でも折れたのか、静かに咽び泣くピーターに向き直る振りをして、ポケットの中にゆっくり手を差し入れる。

「(私が、頑張る番なんだ。)」

ドクドクと脈が速くてうるさい。
心臓が爆発しそうな程、肋骨を押し返す。
荒ぶる呼吸がばれない様、息を詰める。
『失敗するなんて考えない。成功すると思い描いた人間だけが、自分の舞台を手に入れる。』
悪戯の計画を練る時の彼の口癖だ。
一度、どうしてそんなに都合良く成功するのかと興味本位で聞いた事もあった。
失敗するなんて言う奴程、成功した時の喜びを半分しか知らない。成功すると信じ抜いた者だけが、必ず成功の鍵を手に入れる。

「(怖い。怖い。怖い。)」

いつもの自分が、気弱な太鼓を持って叫び出す。
成功する自分なんてイメージを持った事がないルイにはとても耐えられない。

「(できる。できる。できる。できる。)」

大きく埃っぽい深呼吸。夢の中の、あの自信満々の朗らかな笑顔を、脳裏に焼き付ける。
怖がるな、びくつくな、笑う自分をイメージしろ。
手汗で滑って取り落としそうになる杖を、ギュッと力いっぱい握り締める。
一気に振り返った先の凶悪な感情に負けない様に、ルイは口を開いた。



『レダクト』!!!



轟く様な叫び声に、それまで周囲で寛いでいた生徒達が一斉に怯む。
杖の方向は僅かに斜めにずれていたが、手応えは充分にあった。
バリイイィッ!!!と耳を塞ぎたくなる様な衝撃音が頭上へと降り注ぐ。冷静に、そして俊敏に、ピーターを抱えて横へ転がった。
チラリと視界をかすめたのは、目と口を大きく開いて、何をしたと今にも言いたげに二人を見下ろすジェームズの顔。

──刹那、思いも掛けない事が起こった。

閃光が天井を覆い尽くしたと思った矢先、何と全てのシャンデリアを吊り上げていた綱が、バキッと音を立てて外れたのだ。力んで呪文の威力が強過ぎたのだろう。
埃だらけになっていたガラス細工が、世界が終わってしまったのかと錯覚する程の破壊音を立て、まるでゲリラ豪雨の様に、下で突っ立っていたグリフィンドール生達に降り注ぐ。忽ち室内は阿鼻叫喚の渦となった。

「走って!!!」

飛び交う悲鳴に負けない位声を張り上げ、すっかり及び腰になっているピーターを引っ張ると、ルイはこの部屋でただ一つの出入り口へと突進した。
力任せに体当たりした先にあった、驚く程に穏やかで清々しい空気が、一気に肺の中に流れ込む。後ろからはジェームズらしき怒鳴り声と共に、濛々と立ち込める粉塵の中から、誰かが扉へ向かってくるのが見えた。
また右の方からは、流石に騒ぎに気付いたのだろう教師陣達がバタバタと走ってくる音が聞こえてくる。
この惨状に到着するのも時間の問題だ。
恐怖と緊張で吐きそうな顔をしているピーターの手を取り、再び昼下がりの廊下を走ろうと身体の向きを変えた。

「ッ!!?」

然しそれは、突然伸びて来た手と、背中に突如として襲いかかった打撃に阻まれる。踏み出そうとした足はもつれて、ルイは石畳の地面に頭から叩きつけられた。

「…ナメんのも大概にしろよ。」

頭から靴先まで真っ白になったジェームズが怒りで顔を真っ赤にして、ルイの上にのし掛かっていた。誰よりも早く、彼女達が脱出した事に気づいたのだ。
ルイは必死にもがいたが、男女の力の差は歴然だ。足には地面に縫い付ける様に、ジェームズの足が絡みついていた。

「な、何をしているんですか!!!」

マクゴナガル先生の絶叫にも似た声が聞こえて来たが、ルイは背中に伝わる怒涛の様な熱で、頭が活動を停止していた。
ぐしゃぐしゃになった髪を全力で引っ張られ、強制的に顔を突き合わされる。近くに居るはずのピーターに助けを求めたが、最早精神の限界に達した彼は顔面蒼白のままぴくりとも動こうとしない。

「許さない…絶対に…」

ヒステリーを起こしたバンシーの様な形相で、ジェームズは勢い良く拳を振り上げる。
バシンと脳を根こそぎ揺らされる様な音と激痛がして、口の中に血の味が広がった。
やめなさいとか、ポッターとか、長い長い廊下が実際より遅れて音を伝えてくる。
殴られた痛みで霞んだルイの目に、これまでにない程のギラついた光を放ち、あのハサミが現れるのが見えた。

「動かないで…傷増えるよ。」
「…や、めて…!!」

震える小さな懇願は、彼の歪んだ勝利への願望によって揉み消される。
例えようもない寒気が全身を這い回り、硬直する。

「やめて…ッ!!!」

掴まれていた髪の束に、ハサミが大きく口を開けて迫ってくる。目の前がチカチカ明滅する。意識を手放したくなる程の巨悪な視線に、勝手に涙が溢れ出す。ハサミはそんな懇願など意にも介さず、その歯を酷く唸らせて、彼女の髪へ身体を押し付ける。

「…ッて…」

──あんな事しなければ良かった。
──そもそも、彼を探さなければ良かった。
──セブルスの言った通り、変な事を考えずに、きちんと授業に出ていれば良かった。
──否、何よりも。
あんな夢など、信じなければ良かった。

「…け、てッ…」

無意識のうちに、そう呟いていた。頭の中はぐしゃで、殴られた所からは小さく血が滲んでいて、もう立ち上がれない程、身体も心も、ズタズタに疲れきっていて。
本当に心からの言葉だった。鳴呼、やはり自分は、幾ら頑張っても何も出来ないのだ。

いつも弱くて。どうしようもなくて。
いつもいつも…『誰か』に助けられて。
そうだ、いつもあの人が居てくれたから。
いつも、強くて。
いつも、眩しくて、
目を閉じてしまいそうな程、
ただ一つ、星の様に輝いていた人。

「助けて…」

ルイを暗闇から引きずり出した人。
ルイに温かで優しい光をくれた人。
気付けば、力の限り叫んでいた。
今、一番会いたい人の名前を。

「助けて…!!」

欠けた世界から置き去りにされた。

その人は。

名前も知らないはずの。



「助けてッ…!!!!」



その、ひとは。









「シリウスッッ…!!!!」







寸前──

ピタリと、ハサミが動きを止めた。






TO BE COUNTINUE...

後書き…

うおおおおジェム外道すぎるうおおおおお!!!\\orz//ドンッ!
あまりの外道さに一ページ丸ごと構成変えました。流石に夢見る乙女に見せらんない状態になりそうだったので。
もう夢小説じゃないよこれ軽くジャンプ漫画みたいなノリだよこれ…アオリ文あったら「ルイの叫びは届くのか…?」とか書かれちゃうよ絶対…
とにもかくにも一話は3~5ページにしたいので今回はぶっちぎり。
あの、ちゃんと仲直りさせようとは思ってるからね。もうちょっと待っててね。
ていうかこんなフルボッコする前に魔法使えよとか言われそうですがね。

長くなったけど、
まだ(勝手に)続きます!






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