happy days | ナノ


□happy days LOS5
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(──夢の中は苛々する。)
(──ぐにゃぐにゃして、曖昧で。)
(──何にも知らない、小さな自分を。)
(──どこか、馬鹿にされているみたいで。)

『おい、起きやがれクソ眼鏡。』
──起きてるよ、今起きるから…
『そんなんで間に合うのかよ…』
──むー…布団アイラビュー…
『オイコラ何してんだてめええええ!!!』
──わッ、何で二度寝バレたの?!!
『んなの言われなくたって分かんだよ。
何年来の付き合いだと思ってやがる。』
──ところでさ。
『あ??』



──キミ、一体どこの誰なの。








スリザリンの生活に戻る内に、ルイは今まで知らなかったスリザリン生の事情を、次第に知る様になった。
格式高い純血の家や、純血では無いにしろそれなりに富や名声を持った家庭に生まれた彼等は、家の事情で何日かホグワーツを空ける事があった。
寮の中では、クィディッチだけでなく、チェスや読書会などのグループ活動をする事も多く、大半の生徒は学業よりもそちらに専念していて、学生と言うよりも貴族みたいだ、というのが、ルイの素直な感想だった。

寮独特の人柄に関しても、ルイは少し…いやかなり、今までの印象を修正しなければならなかった。
冷たい、意地悪、差別的など、あまり良い評判のなかったスリザリンだが、実際その一員になってみれば、確かに人の癇に障る事を平気で言う癖はあるが、きちんとした礼儀正しさがあるし、また他の三つの寮から敵視されているのを自覚しているからか、意外と同じ寮生に気を遣う人間が多い。
上下関係なく仲が良く騒ぎ立てるグリフィンドールとは違い、年長者には敬語を使うところも違った。上級生は下級生に対しての助力や世話を厭わず、常に上の人間として威厳のある態度と、手本となる様な行動を取る。たまに上級生の様な振る舞いをして、同年の他寮生を見下してしまうところもまた、彼等の様になりたいという願望の裏返しだったというのも理解出来た。

バッシャァッ─
「きゃっ…!!!」

しかし、ルイが比較的大人しい性格と知って、他寮の生徒から嫌がらせや陰口を言われるのは、夢でも現実でも同じだった。
あの肩身の狭い思いは、別に自分がグリフィンドールだからというわけでも、あの目立つ彼等のそばに居たからというわけでもなく、ただ単に自分がそういう目に遭いやすいという事だったのか…この点に関してだけは、ルイは少しがっかりした。

最初に来たのは、血液が一気に地面へと急降下して行く感覚。ポタリポタリと音を立てる雫が髪の毛から垂れ落ちているのを見て、少なくとも固体を叩きつけられたわけではないと気付くのが精一杯だった。

「…あ、ごっめーん!!!
下薄暗いから居るの気付かなかったぁ。」

次に頭上目がけて落ちて来た、下卑た爆笑の中でも一際通る彼の声は、一直線に他人に届き、突き刺さる。それはルイも良く知っている。どんな時でも、彼の声は自分の不安を掻き消してくれていたから。

「あーあすっかり濡れねずみだよ。」
「いーじゃねえか、スネイプとお揃いだ。」
「ッお前達!!!いい加減に…」
「セ、セブルス、私は平気だよ…」
「ッ、ルイ…!!」

ニヤついた顔で彼女を嘲笑する彼等に、我慢ならないとばかりにセブルスが声を張り上げるが、ルイはそれを制止する。
階段の上から自分を見下すグリフィンドール生の半分は、ルイが知らない、そして夢の中のジェームズがあまり関わりを持たなかった生徒達だ。柔らかい鳶色や、ローブに埋もれる様な稲穂色が居ないのが確認出来たのが、唯一の救いだったと思う。

「平気だって、ね??」
「…う…」
「大丈夫、だから。」

何か言いたげな彼を押し切る様にそう言って、手すりに肘をつき、落ち着いてしまった彼等をつまらそうに見ていたジェームズに、ルイは視線を真っ直ぐ向ける。
全身びしょ濡れになりながらも、涙一つ見せずに平然としている彼女に、彼は思わず少し身じろいだ。

「な…何さ、文句あるの??」
「…ううん、」

ルイはにっこりと笑う。
いつものように出来るだけ、
──安堵にも似た表情を浮かべて。

「元気そうで良かったな、って。」
「!!!」

この状況に全くもってそぐわないその言葉に、ジェームズは明らかに動揺したようだった。

「ルイ…?!」
「な…何笑ってんだよお前!!」
「うえー気持ち悪!!!マゾかよ!!」
「流石スリザリンだな、頭おかしーんじゃねーの?!!」

グリフィンドール生が次々に囃し立てる。
セブルスが再び口を開こうとしたのを見て、ルイは笑うのをやめて彼の袖を引っ張って首を強く振った。

「…変人同士ほんっとお似合いだよ。」

口元を歪め、吐き捨てる様に呟いたジェームズは、寄りかかっていた手すりから離れ、スタスタと向こうへと姿を消した。

「おい待て!!ポッター!!!」
「セブルス、落ち着いて。」
「ルイ…何故言い返さないんだ!?
こんな事されて、どうして…!!!」
「本当に平気…寧ろ、少し安心したから。」
「は??」
「ううん、何でもないの。
心配させちゃってごめんなさい。」

先程の彼の視線を、ルイは理解した。
苛立ちの中に、どこか心の奥を強く突かれた痛々しい揺らぎを隠す様な。
…どこかで、彼と話さなければならない。
多分彼は、ジェームズは…

「…君が謝る事でもない。
ルイ…あまり他人に優しくしすぎない方が良い。優しいのは君の美点でもあり、悪い癖でもあるんだから。」
「…うん。」
「一度寮に戻って着替えて来ると良い。
スプラウト先生には、僕から事情をきちんと伝えておく。」
「ありがとう。」

出来るだけ早く来るんだよ、ルイと自分のバッグを手に、セブルスはそう言って温室のある方へと走って行った。
彼の姿が見えなくなると同時に、予鈴ががらんとした廊下に響いて行く。
あの夢からずっと、授業に間に合った覚えがない。不良になっちゃうかも、なんて、ルイは思わず笑ってしまった。






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