「…ルイが…??」
「えぇ、貴方の事を捜しに行ったと思ってたから、別に止めなかったけど…会わなかった??」
「いや、先生に呼ばれて職員室に行っていたんだ…居ないのか??」
「…テメーと帰って来るとばっかり思ってたからな。俺らは知らねーぞ。」
「アンタもそろそろ機嫌直しなさいよ…セブルスに当たっても意味ないでしょーが。」
「うっせえチビ!!!!」
「そろそろマイフォーク持ち歩こうかと思うんだけど、どう思う??」「サアアアアセン!!!」
「……ルイ…」
授業の開始を知らせる予鈴が鳴った。
低く、けれど少し金属質な、高い音。
「…」
チョキン、ハサミが鳴る。
羊皮紙が二つになる。
「……、」
チョキン、ハサミが鳴る。
羊皮紙が四つになる。
「………ッ、」
チョキン、重ねて切る。
羊皮紙が八つになる。
「…………!!!」
チョキン、チョキン、ハサミが鳴る。
羊皮紙が十六の紙切れに…
「あの…」
絞り出した声はとても小さい。
しかしジェームズはきちんと聴き取れたのか、ハサミを動かしていた指を止めて、ジロリとルイを睨む様に見た。
「何。」
「え、えっと…鐘、鳴ったよ??」
「じゃあさっさと行けば??遅れるよ。」
「で、でも…」
「あー僕の事はお気になさらずー。」
まるで手の一部の様に器用にハサミを操り、あっという間に一繋がりの人形を作る。
かと思うと一瞬でそれをぐしゃぐしゃに丸めて、そこら辺の芝生にポイと投げ捨てた。
ずっとそうしていたのだろうか、周りには似たような沢山の紙くずが彼を取り巻く様に、同心円状に散らばっていた。
「(…本当だったんだ…)」
見れば、口が開けっ放しの鞄は、羊皮紙以外には何も入っていないかの様に、平たく潰れているみたいだった。
ルイが知っている彼の鞄は、教科書や羊皮紙以外にも、好きなクィディッチ雑誌や悪戯グッズなどのあまり勉強に関係なさそうな物まで詰め込まれて、いつもパンパンに膨らんでいたのに。
「──あ、あの…」
「君さァ、ホグワーツ居て楽しい??」
「え??」
隣で居心地悪そうに肩をびくつかせたルイを気にも留めずに、ジェームズはザクザクと粗い音を立てて、羊皮紙を切り続ける。
眼鏡を掛けていない彼の瞳は気だるそうに半分閉じられていて、あの生命力に溢れた輝きはどこにも見つけられなかった。
「スリザリンだから色々自由に出来て楽しそうだよね。良い子にしてれば何でも許されそうだし、わざわざ良い成績取らなくても、うちのお金で悠々自適だろうね。」
「……!!」
鞄から羊皮紙を引っ張り出して、チョキンチョキンとハサミを鳴らす。インクの染み一つない真新しいそれは、彼の手首のスナップと共に、メモにもならない小さくて不揃いな紙片へと姿を変えて行く。
「…僕さァ、入学する前、ホグワーツに行くのがすっごく楽しみだったんだ。
他の友達が学校で、幾何学とか、地理学とか並んでる時に、僕だけホグワーツで魔法を学べるなんて。
きっと最高に楽しくて、毎日が漫画みたいに面白いんだろうなって、ワクワクしながら来てさぁ。
……こんなに退屈なんて、知らなかった。」
頭が痛くなりそうな程、悪寒がした。
切りかけの羊皮紙はまた紙の玉になり、彼の手の中でコロコロと回されている。
「(…違うよ、)」
毎日が楽しいと、彼は言っていた。
ここに居る自分が大好きだと、言っていた。
いつも溌剌とした笑顔を振りまいて。
毎日を楽しむ勇気を周りにくれて。
どこまでも、ホグワーツが大好きだった。
「毎日毎日同じ事の繰り返しで、
口を開けば点数点数ってうるさくて。
周りは家柄の事ばっかり気にしてて、
ちょっと騒げば変人扱いされるんだ。
もうさ、何それって感じで。
魔法使いがそんなで、楽しいのかって。」
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