happy days | ナノ


□happy days LOS3
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チョキン、ハサミが鳴る。
羊皮紙が二つになる。
チョキン、ハサミが鳴る。
羊皮紙が四つになる。
チョキン、重ねて切る。
羊皮紙が八つになる。
チョキン、チョキン、ハサミが鳴る。
羊皮紙が十六の紙切れになる。
チョキン、チョ…ハサミを止める。
何時の間にかただの紙くずになる。
ため息をついて放り投げる。
羊皮紙がチラチラ宙を舞う。
今日もいつもと変わらない。

「──退屈だなぁ…」

起き上がって羊皮紙を取る。
チョキン、またハサミが、鳴る。









「…ルイ??」
「ん、起きてるよ。」

微かに開いたドアの隙間から、ミルが珍しく小さな声で名前を呼んだ。ルイは読んでいた本を膝の上に乗せて、なるべく元気に聞こえる様に声を張ってみせた。

「もう平気??寝てなくて大丈夫なの??」
「昨日早く寝たから、何だか目が冴えちゃって…様子を見に来てくれたの??」
「べ、別に??忘れ物あったから、取りに来ただけよ。」

本当はルイの言う通りなのだが、意地っ張りな性格が首をもたげたのか、ついつい素っ気ない素振りをしてしまう。
けれど彼女にはとっくにバレている様で、ルイは気分を害する事も無く、ミルを見て嬉しそうに笑う。しっかり者と評判のミルズ・スチュアートが忘れ物をするのは、誕生日と同じくらいの頻度なのだった。

「…元気そうにしちゃって。」
「え??うん、今はもうすっかり…」
「ッ昨日あっれだけ私を心配させたのはどこの誰かさんかしらぁ〜??!」
「ふぃぃぃ!!痛い!!痛いってばぁー!!!」
「…アンタの感受性が人一倍強いのは知ってるから何も言わないけど、こんなにケロッとされると何かムカつくわね…」
「うぅ…ごめんってば…」
「…ま、いつもの事だけど。それに…

今回もセブルスが宥めて連れて帰って来てくれたから良かったけどね。」

階段の下で一頻り泣いた後、ルイはセブルスに説得されて寮へと帰って来た。
その後彼に宥められてホッとしたのか…ルイはそのまま熱を出してしまったのだ。ミルから聞いた話では、彼と相談して次の日は休ませようという事になり、その後の先生達への言伝もまた、セブルスが全て行ってくれたらしい。暫くは頭が上がらないわね、と、ミルはルイの着替えを手伝いながら少し嬉しそうに呟いた。

「じゃ、私午後の授業に行くから。
また熱が出たら、ちゃんと薬呑むのよ。」
「はーい…」

あと、あんまり無理しない様にね、扉越しに聞こえた声にルイは苦笑した。
環境が変わっても、彼女は彼女だ。
毛布に潜り込んで一息ついたのと同時に、何故かドアからノックの音が聞こえた。ミルがまた戻って来たのだろうか??

「??ミルー…??」
「…僕だ。」
「──セ、セブルス?!!」

ルイは思わずガバッと飛び起きた。

「見舞いに来た。入っても大丈夫か??」
「え、ちょ、ちょっと待って!!!」

相変わらず見覚えの無い部屋に何も見苦しい物が無いか確認し(男子の目に触れてはいけない物はない様だ)、寝乱れた髪を適当に整える──よし、OK!!

「ど、どうぞ…」
「失礼する。」

静かにドアを開けて、彼が入って来た。
ルイは何故か緊張感を覚えた。

「体調はどうだ??もう平気か??」
「う、うん、もうすっかり…」
「そうか、良かった。」

フワリと(夢の中のリーマスに似ていた)柔らかな笑みを浮かべて、彼は近くの椅子に腰掛ける。パジャマなのが少し恥ずかしくなり、ルイは毛布を首までずり上げた。

「あ、あの、」
「ん??」

こちらのセブルスは何故か…
とても、落ち着いていた。
顔に掛けている眼鏡の所為もあるのか、四角いハーフリムのレンズの向こうに、自分の知っている彼の気難しさは微塵も感じられない。
顔色もどこか血色良く、全体的に優しげな雰囲気が漂っている。先程の声も、いつも聴いていたものとは違い、調律されたピアノの様に滑らかで、寧ろルイの方がギクシャクとして聴こえにくく感じた。

「…色々ありがとう。今日の事…」
「いいや、礼を言われる事でもない、気にするな。」
「う、うん…」

交わす言葉はいつもと変わりないのに、ルイは何故か居心地が悪く感じた。
あのセブルスが、あのいつも無愛想なセブルスが、常時穏やかに微笑んでいる所為でもあるのか、それともまた別の理由…普段男子が足を踏み入れる事のない部屋に、彼が居るからだろうか。今までにない程のムズムズした感覚に、思わず熱くなる頬を押さえて俯いてしまう。
セブルスは目敏くそれに気付いた。

「どうした??まさかまた熱が…」
「え、ううん、あの…」
「ちょっと失礼。」
「ひぇ…ッ?!」

急に目の前に近付いて来たハーフリムに、ルイは思わず奇妙な悲鳴を上げた。
次いで額に感じた別の違和感に、ルイは見開いた目を閉じる事が出来なくなる。
カチャリと鼻先で音を立てるレンズに、顔を背けるのは何だか申し訳ない。
けれどこれは、何というか…



「…やっぱり少し熱がある。
まだ寝ていた方がいいぞ。」
「ッ…う、うん…」

恥ずかしい…ルイはプスプスと頭から煙を出しながら、毛布に潜り込んだ。







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