happy days | ナノ


□happy days LOS2
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混雑した廊下をルイは走る。
逃げる様に、振り切る様に。
何かに覆われてしまうのを拒む様に。
スリザリンに入ったのは、確かに自分が選んだことだ。
グリンゴッツ銀行で出会ったミルとザリスが居たから、両親がスリザリン生だと知っていたから、だから…

「(…違う!!!)」

零れ出しそうな涙を我慢する様に、ギュッと視界を閉じ込んでいた所為で、とうとうルイは中庭で躓き、転んでしまった。
反動でひっくり返る様にルイは尻餅をつく。すぐに腰を上げようと思ったが、膝に走った焼け付く様な痛みに思わず声を上げる。

「ッい…!!!」

拍子に擦りむいたのだろう。痛みが押し寄せた場所は、丸く皮膚が剥けて血を滲ませていた。視覚的効果なのか、更にジンジンと痛覚を震わせるそれに、我慢していた涙がボロリと溢れ出してしまう。

「…う…ううぅ…!!」

胸が詰まって苦しくなる。ギュッと押さえてやり過ごそうとしたが、耐え切れない。
ルイはそのまま地面に深く蹲り、静かに嗚咽を漏らし始めてしまった。

「うううッ…!!!」



夢では、ないのだ。
自分は本当に、あそこに居たのだ。
朝の違和感が大きくなる。首元を締め付けるネクタイの色が、急速に視界を眩ませる。

自分でも、馬鹿らしいと思えてしまう。
そんなのあるわけがないと思っている。
けれど、それでも…やはり、違うのだ。
それだけは、確信を持って実感出来た。



「ね、ねぇ…き、きみ??」



ふと、頭上から、懐かしい声がした。
(必ずどもって喋る癖。)
泣き腫らした顔を上げて、声の主を見る。
(すぐに泣きそうになる赤ら顔。)
稲穂みたいな金髪が、小刻みに震えていた。

「…ピ…」

見間違えるはずもない…彼だ。
夢の中で、否、もう一つの現実の中で、自分共に生活をしていた、大切な仲間。



「ピーター!!!!」



ルイの二度目の大きな声に、ピーターはいつもの様に『ヒッ?!』と情けない声を上げた。

「ピーター、ピーターだよね!!?
ピーター・ペティグリュー…!!!」
「え、えぇ?!な、何で僕の名前…」
「わ、私だよピーター!!!
ルイ…ルイ・ホワティエだよ!!!」
「ヒィッ?!」

ルイは思わず四つん這いのまま、ずいっと彼に詰め寄る。お馴染みの悲鳴も、今の彼女にはとても安心するものに感じた。

「な、何?!知らないよ僕…」
「違う!!知ってる筈だよ!!!私だってば!!
いつも一緒に居たじゃない…!!!」
「か、からかわないでよ!!スリザリンの君と僕が一緒に居るわけないじゃ…」
「ピーター、どうしたの??」

再び、懐かしい音。
泣いているルイをいつも慰めてくれる、優しい彼の声が聞こえて、ルイは思わず嬉しさで涙が零れそうになる。

彼が…リーマスが、
いつもと変わらずそこに居た。

「リ、リーマス助けて…!!」

ピーターが逃げる様に彼の後ろに隠れる。
リーマスは目の前に居るルイを少し怪訝そうに見て、それから背中でビクビクして居るピーターを見た。

「どうしたの??彼女と何かあったの??」
「そ、その子が転んで泣いてて、可哀想にぬって声を掛けたら、いきなりワケの分からない事言い出して…き、急に『いつも一緒に居たじゃない』とか言ってきたんだ!!」
「…それなんてギャルゲ展開??」
「違うってば!!信じてよー!!!」

うわーんと転んだルイよりも大号泣し始めたピーターに、やれやれと呟いて…リーマスはルイの目線に合わせて座り込む。
彼の目が…まるで赤の他人に向ける様な無表情な優しさが、ルイの背中に、嫌な予感を嫌でも感じさせた。

「早く医務室に行った方が良いよ。
結構出血ひどいから、痕残りそう。」

にこりと、堅苦しく緩んだその顔に、ルイは涙が凍りつく感覚を覚えた。

「リー、マス…??」

「…ごめん、良く分からないけど、






どっかで君と仲良くなったっけ??






音を立てて、何かが壊れた。

それは、奇妙な夢を支えていた確信が、揺らぐ音だったのかも、しれない。






「…行っちゃった。
流石に言葉を選ばなすぎたかな。」
「な、何だったんだろ…」
「さぁ??まぁ、スリザリン生と仲良くしても良い事ないからね。うちの大将のご機嫌損ねる様な事したくないし。」
「…き、嫌いだもんね…」
「行くよピーター。早くしないと、折角彼を押し込んだ教室が爆発しちゃうかも。」






「あら、おはよう…え、ルイ??
あー…今はそっとしといてあげた方が良いかもよ。
校内の何処かに居るとは思うけど…
ちょっと朝、変な夢を見たらしくて。」
「…かなり過敏になってるから、少し位一人にさせ…クソッ、行っちまった。」
「優しいわよねーあんなに急いで。まぁ顔は普通だけど、彼のああいう所ってなかなかポイント高いと思わない??」
「オ、オレだってあの位…!!!」
「あー無理無理、アンタ大事な所でヘタレだし、凶悪なくらいKYだから。ここって時にああやってしっかり出来る人の方が、ルイにはお似合いなのよ。」
「ヘタレ言うな!!!…あーくそ!!!アイツに出来て俺に出来ないとか腹立つー!!!」






膝の怪我が痛い。泣き過ぎて頭痛もする。
ボロボロとローブを濡らす涙のせいで、痛みが何倍にも増している気がした。

「ッ…うぅ…ッ!!!」

夢だったのなら、どうしてこんなに辛いのだろう。ただの自分の妄想だったのなら、どうしてこんなに苦しいのだろう。
ただの幻、ただの空想。そう断言出来るのならば、どんなに楽になれるのだろう。



でも、



「う…ッひぐ…!!!」

あの温かさは、本当にあった。
あの優しさは、本当にあった。
ただそれだけが、たったそれだけが、確かに、ルイの覚えている全てだった。

優しい鳶色の揺らめき。
稲穂色の小さな心遣い。
どれもこれもが、確かに在った。
ルイの頭の中に、残響していた。
それまでも否定して仕舞うのなら、
もう、ルイは何も自分を確定出来ない。

『な、何?!知らないよ、僕…』
『どっかで君と仲良くなったっけ??』

「…どう、して…??」

再び出逢えた微かな喜びと。
再び感じれた僅かな幸せが。
今、涙と一緒に、零れ落ちてしまう…







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