「…ほら、起きてルイ!!
もう8時よ、ルイったら!!」
「…うん…起きるから…後5分…」
「またそんな事言って…
いつもそうやって起きないじゃない。
こうなったら実力行使…とうりゃ!!!」
「わぁぁやめてよーぉ…!!」
引っぺがされた毛布にしがみつくも、そのままベッドから転がり落とされた。
ルイは眠気の覚めない瞼を擦りなが呑気に欠伸をした。いつも通りの朝だった。
「ベッド片付けて置くから、早く着替えて来なさい。顔もちゃんと洗うのよ。」
「はーい…」
「髪もちゃんとするのよ!!!」
「分かってるよ、もう…」
若干不貞腐れながら洗面台へ向かう。銀の蛇口を捻ると冷たい水が迸り、差し出した手から否応なく夢の余韻を奪って行った。
バシャンと顔に叩きつけると、ツンと皮膚に尖った痛みが突き抜けて、頭の芯を揺らす。手探りでタオルを掴み、ゴシゴシと強く顔を拭いた。まだ脳裏は眠い。
「…ふぅ…」
パジャマを脱いで、先程の几帳面なルームメイトがハンガーにかけてくれていた制服に手を伸ばした。白いカッターシャツに腕を通した後、灰色のボックススカートを履いて、シャツはきちんとスカートの中へ入れた。
校章のワンポイントがついた黒のソックスを履いて、それから…
「…んん??」
後頭部に過ぎった違和感に、不思議な声が出た。手順はいつもと変わらない。手の中でくるくると形を変えて行くネクタイの肌触りも、毎日感じている物と同じなのに…
「…何でだろ。」
落ち着いた深さの緑色と、冷たい空の灰色。
その色彩が嫌に目に付いたのは、気のせいなのだと思って顔を上げた。
スリザリンのネクタイは、行儀良くセーターの中に収まって、ツンと澄ましてルイを鏡越しに見つめていた。
「ほら其処にも食べこぼしちゃって!!
相変わらずうっかりさんねぇ。」
「むー…良いよ自分でやるから…」
「出来ない癖に何言ってんの。
ほら、こっち向いて!!」
一直線に切り揃えられた前髪の下の、釣り上がり気味の眉を顰めたルームメイトは、否応なくルイの口元をナプキンで拭いてくる。スプーン片手に唸りながら抵抗したが、結局その口は、同じスリザリン生のミルズ・スチュアートに綺麗サッパリ掃除されてしまった。
「全く、いつまで経っても子供なんだから…世話するこっちの身にもなりなさい。」
「…私より小さいミルに言われたくない…」
「(ブチッ)
なあぁんですってぇえええ?!!そういう失礼な事言うのはこの口か!!!この口かァァァ!!!」
「ふぃぃぃ!!痛い!!痛いよミルー!!!」
「お前等、朝から元気だな。」
コンプレックスに火のついた彼女から、頬を思いっきり抓られ悲鳴を上げるルイに、不意に誰かが声を掛けて来た。
ミルはルイの頬をチーズの様に引き伸ばしながら後ろを振り返った。
「何だザリスじゃない、おはよう。」
「よっす。ルイ、元気か??」
「うひぇ…おひゃようザリス…」
灰色がかった銀髪の間で一際輝くのは、耳元で煌めく赤い石のピアス。
少し顔立ちはきついが、ルイを見る視線は柔らかく、笑みを浮かべている。
「隣、良いか??他空いてなくてよ。」
「うん、いいよ。」
「あらぁ、いつもの取り巻きガールズは??」
「うっせーよチビ。(あぁん!?とミルが怒鳴った。)
最近しつこいから逃げてんだ。四六時中周りでウロウロされても良い気分しねー。」
よっこいしょ、とルイの隣の椅子に腰掛けながら、ザリスは心底嫌そうに呟いた。
頬をさすりながらルイが彼に皿を手渡すと、『サンキュー』と嬉しそうに整った顔を綻ばせた。
「みんな今週のホグズミードに誘おうって必死なのよ。全く、こんな奴の何処が良いんだかねぇ…」
「ああいうキャピキャピした女、元々好きじゃねーんだよ…うるせぇし頭弱ぇし。
俺が好きなのはもっとこう、大人しくて、素直で…ほ、本とか読んでる奴の方が…」
「ルイ、これ結構美味しいわよ。」
「本当??ちょーだい。」
「…!!
(テメェ折角人がアピールしてる時に!!!)」
「あ、本当だ、美味しい。」
「でしょー(アンタの本心なんざ見え見えなのよ、何年いとこやってると思ってんの!!)」
幸せそうにモグモグ口を動かすルイを尻目に、ザリスとミルは仁義なき睨み合いをバチバチ繰り広げていた。
[次へ#]
[*前へ]
[
戻る]
[
TOPへ]