happy days | ナノ


□happy days LOS1
470/497




願い事が一つだけ叶うのならば、



どんな願い事でも叶うのならば、



あなたは、どうしますか?






Loss of Sirius Black






「……何だこれは。」

朝っぱらから眉間にシワを寄せるのもどうかと自覚しつつ、セブルスは小さくボソリと忌々しげに呟いた。
全長10メートルくらいはありそうな長テーブルにひしめく料理たちに押しのけられるように、それはセブルスの目の前に申し訳なさそうに鎮座して居る。黒のストライプの包装紙で包まれたその上には伝票が貼られているのだが、そこに書かれた名前にこそ、セブルスの機嫌を斜めにさせる原因があるのだった。

「…何故あいつへの届け物が僕のところに…」
「こんなところにありましたかぁぁぁ…」
「ッ…!?」

突然どこからともなく、パイプオルガンの不協和音の様な不気味な声がした。
セブルスは細い肩をびくりと震わせ、声の主がどこに潜んで居るのかを捜してキョロキョロと周りを見渡す。
…居ない。一体どこに…

「乙女のヒミツを男子生徒の所に届けるなんて、不躾ですねえええぇ…??」
「ヒッ…!!!」

インクを頭からかぶったみたいな真っ黒な髪が…否、何かもう真っ黒な髪の毛お化けが、何故か天井からバサリとぶら下がっていた。ホラー映画ならば最早定番の、『周りを見渡してホッとしたら前方に居る法則』が発動していたのだ。
重力に従いダラリと顔に垂れる髪の毛の間から覗く、ドブの様にどんよりとした碧眼が、セブルスの驚きように満足したのか、下に引き上げられた肌を更に歪ませた
口がにんまりと嗤う。その貞子並みの破壊力に、セブルスの背筋に冷たい悪寒がゾゾゾゾと走った。

「…おはようございます、スネイプ。
今日も素敵な反応をして下さって嬉しいですよぅ…」
「ゴ、ゴーリー!!
貴様、何度その挨拶をやめろと言えば分かるのだ…!!朝から貴様の顔を拝むなど軽く衝撃映像だ!!!夢に出る!!」
「まぁ酷いですねぇ…私なりの親愛の証だと思って居るのですが、分かって頂けないのは些か悲しいですよ…」
「ならば普通にやれ普通に!!!
そんな事をするから友達が居ないのだ!!!」
「夢に出るなんて…うふふふふ…
流石の私も照れちゃいますよぅ…」
「終わった話題を蒸し返すな…!!!」

セブルスよりも具合の悪そうな土気色の頬をなぜかポッと赤らめ、『スリザリンの髪の毛お化け』アイーダ・ゴーリーは、その運動とは無縁そうな貧相な体つきには似合わない程、ひらりと華麗に身を翻して地面に着地した。

スリザリンの中でも一際異彩を放つ彼女は、同寮の生徒達からも距離を置かれている。
東洋人に負けず劣らず真っ黒な髪と碧眼、普段はその長すぎる髪に隠れて見えない意外と端正な顔立ち。黙っていればなかなか美人の部類に入るのだが、中身は気狂いの如く気まぐれで、あのルシウスですら呆れる程の自由人だ。人目も気にせず奇行に走り、得意な『闇の魔術の防衛術』では、寧ろ防衛して来た相手をどうやって痛めつけるかを常に探究する程の『闇の魔術』フリークを自称している。
神出鬼没、妖異幻解、ついたあだ名が『スリザリンの髪の毛お化け』。ホグワーツに既に居る幽霊の事を皮肉って付けられたのか。ちなみに本人は寧ろ気に入っているらしい。

セブルスとしては、別に自分に害を及ぼさなければ、気狂いだろうがお化けだろうがどうでも良かったのだが、一度図書室でそれっぽい本を借りる所をうっかり目撃されてからというもの、闇に魅入られた同志という非常に不名誉なカテゴライズをされ、更にはこうした嫌がらせに近い彼女曰く『親愛表現』をされては、その慄く様を愉しそうに観察されているのだった。

「愉しいお話もしたいのですが、うふふふふ…今は届いたそれの方が大事ですねぇ…」
(早く帰れ…)自分の荷物位きちんと管理しろ。誰かに悪戯されても僕は知らんぞ。」
「おや、もうこれの禍々しい気配に気付いたのですか…流石は同志スネイプ、相変わらずの慧眼ですねぇ…」
「いや、貴様に届く物大概が禍々しい物だろう。別に気付いた訳では…」
「うふふふふ…一ヶ月も前から予約していた甲斐が有りましたぁ…これを手に入れる為にどれだけの人間を犠牲にした事か…!!」
「(他の買い手の事だと思いたい。)」

然し、珍しい…セブルスは彼女の今までにない興奮状態に少し興味を抱いた。彼女がこれ程までに執着する物なんて、今まではほとんど古くて胡散臭い、インチキそうな代物ばかりだったのに…

「(ピクッ)気になりますかぁ?!うふふ、気になりますよねぇ!!!流石は同志!!!」
「いや別に気には…」
「うふふふふ…では同志スネイプには特別に教えて差し上げましょう!!!さぁさぁ闇の深淵を二人で覗こうではありませんかぁうふふふふ!!!」
「ま、待て、僕にも予定という物が…ぎゃあああああ!!!」

セブルスの抵抗も虚しく、アイーダは完璧に我を忘れ、彼の手を無理矢理引っ掴むと、暴走機関車さながらに、粉塵を上げて大広間から走り去って行ったのだった。
二人のやり取りを見ていたスリザリン生は、セブルスが儀式の供物にでも捧げられてしまうのかと勝手に勘違いして、哀れな子羊セブルスに加護あれと、各々の胸で十字を切り、神に願うのであった。






[次へ#]
[*前へ]



[戻る]
[TOPへ]
bkm





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -