happy days | ナノ


□happy days 66
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疲労で上手く開かなかったルイの二つの目がぱっちり開いて、目の前で背中を向けて座り込んで居るリドルをまじまじと見つめた。
小振りの形の良い耳朶が裂けて血が出ている。せめてユニコーンとの格闘の所為であります様にと願った。耳の怪我は浅いとは言え、下手すると熱が出たり頭痛がするのを、ルイは知っていた。

「…汚れるよ。」
「今更??」
「お、重いし。」
「今更??」
「オイどう言う意味だそれ!!」
「早く。こっちだって怪我してるんだから。」
「〜ッ…」

いつもだったらすぐに飛びついて来る癖に、振り向きざまにそう皮肉を言うリドルに然し、ルイはなかなかその背中に捕まる事が出来なかった。
…さっきまで殴り合ってたからとか、同じく満身創痍の彼に悪いとか、そんな理由ではない。そんな事で彼に遠慮する彼女ならば、とっくの昔にノックダウンしている。

「(本当に何で今更…!!!)」
「…ねぇ、」
「アァン?!」
「(チンピラ??)…寒いし、帰りたいんだけど。
君のお仲間も、すごく心配してたし。」
「…!!!」
「ペベレルも、プルウェットも、泣きそうな顔で捜してたよ。」
「……」

地に垂らした腕から、雪の冷たさが伝わって来る。
アリスは勿論だが、キールもなかなかあれで泣き止むのが遅い。無駄に心配させてしまうのは、彼等を『幸せ』にしてやるのが役目の自分の倫理に反する。それは分かっているのだが…

「…何が気に入らないの。」
「き、気に入らないとかじゃなくて…」
「じゃあ何。理由があるなら言いなよ。
じゃないと此処に置き去りにするよ。」
「……!!!」

こんな血だるま状態(実に当てはまっている)で森の中に一人で居れば、血の臭いを嗅ぎつけて、どこぞの腹を空かせた魔法生物が集まってくるかもしれない。幾らユニコーンの呪いで人体構造がおかしくなったルイとて、無事で居られる保証はない。
今まで自分を絞め殺そうとしていた相手が、死にたくなければ自分に頼れと言っている…勿論それが理由な訳もないが、偉くちぐはぐな状況だと思った。

「…君の事だから、『お姫様抱っこがいいなテヘペロ☆』とか言うんじゃないの??
そんな理由だったら迷わず置いて行くけど。」
「アンタの中で私はどんな存在なの?!」
「空気読めない困ったちゃん。」
「そりゃ困ったちゃんだわ!!!つーか違うし!!!生まれてこの方男の子におんぶとか抱っことかされた事ないから、恥ずかしくて出来ないからだs…、!!!!」
「…は??」

今度はリドルがアホ面を晒す番だった。

「今、…」
「ダ、ダイナミック・ヘッドバット!!!!」
「危なッ!!?」

振り返ろうとしたリドルの頭に狙いを定め、ギュン!!と音を立てて後ろから襲って来たルイの頭を、彼は前につんのめって避ける。慌てて振り返ったその先には、何かもう鬼みたいな血だらけの彼女が、さっきまでの狼狽えは何処へやら、シュコーシュコーと白い粉塵を口から上げて仁王立ちになっていた。その顔は赤い。マジ鬼っぽい。

「ちょッ…本当に置き去りにされたいの君?!」
「消し去れ…今の数秒の記憶を木っ端微塵にニューロンから消し去れェェ…!!!」
「その為の頭突き?!記憶どころかニューロンごと木っ端微塵にしようとしたよね?!」
「大丈夫!!まだアマチュアだけど奇跡でどうにかする自信はあるから!!」
「何のアマチュア??!」
「つ事で頭蓋骨差し出せえええ!!!」
「うわ何この子さっきよりつおい!!!」

見るからに自分よりも甚大なダメージを負っている癖に、物凄い力で肩を掴んで来るルイの顔を、爪の痕が付くくらいに握り締めて遠ざける。
あ、これが火事場の馬鹿力か、とか頭の隅で思ったリドル、何か本当今日は厄日だった。

「ぐはぁ!!!」
「うわ、目の前で吐血されるとかどんなショッキング映像?!」

無理が祟ったのか、盛大に血をリドルの端正な顔にぶっ掛けて、ルイは血溜まりの中ピクピク痙攣した。力んで腹から出血し過ぎたのだろう。
鐘の中に入れられてしこたまガンガン鳴らされて居る様な凶悪な頭痛に悶絶している。
その手は未だ諦めず、ウロウロと虚空を彷徨い獲物を探している。最早グールだ…流石のリドルも、そのおぞましい光景にゾッと背中を震わせた。

「…ぐううぅ…消し去れェイ…」
「ハイハイ、忘れた忘れた。」
「よ、よし…」
「明日掲示板に書いておくから。」
ギャー!!!!げふゥ!!」
「嘘だって、それ以上吐くと出血多量で本当危ないから。」

だから、とリドルはルイの腕を掴む。
グゥ??と呻いた彼女は、反応が遅れた。
そのままクルリと後ろを向いて…

「よっこいしょ…」
「!!!!?」

一本背負いの要領で、ルイを背負う。
ルイは後ろで何も言わない…否、言えないのが正解か。当のリドル本人はむしろ、思ったよりも簡単に軽く持ち上がったのに驚いていた。

「あ、出血したから軽いのか。」
「…!!!」
「ちゃんと掴まっててよ、落ちたりして頭打たれたりしたら、流石に僕も対処出来ないし。」

擦り傷だらけの膝の裏に手を通し、これ以上暴れないよう固定する。背負われた本人は暫く何かウンウン唸っていたが、やがて諦めたのかリドルの後頭部に大人しく顔を預けた。

「行くよ。」
「…」

彼女の無抵抗を確認し、リドルは一度、今夜の凄惨な光景を振り返る。火の消えた二つの骸からは、もう再び立ち上がる気配を感じる事は無かった。








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