happy days | ナノ


□happy days 65
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死んだ。
『ヴォルデモート』はそう確信していた。
元々ショック死したっておかしくない出血の量だ。仮に生きていたとしても、この重体を抱え村へ助けを求めたとしても、果たして彼女が生きてホグワーツへ帰れるとは、彼は微塵も思わなかった。
ルイ・××が、死んだ。
さっきからひしひしと肩を揺らす震えは、自分の中の面倒臭い『とむ』が泣いているせいなのだろうか。
唯一自分を、何の価値も無く、ただトム・リドルという存在を生かす為だけに生み出されたちっぽけな自分を、嘘でもいい、愛していると言ってくれた彼女の死を、哀しんでいるのだろうか。

「……。」

此の儘放って置いて仕舞えば、ユニコーンの亡骸も彼女も、雪に埋もれてしまうだろう。翌日にもなれば、森に住まう生物達の糧となり、自然へ淘汰されてしまうだろう。
けれどその方が、この孤独な彼女にとっては『幸せ』な様な気がした。
もう二度と、人であるがゆえの苦しみに振り回される事など無くなれば、彼女は何の不安も抱えずに居られる様な気がした。

立ち上がると、彼女の血の臭いとはまた別の、ツンと鼻を突く不思議な臭いがした。
振り返ると、その視線の向こう…最早雪と判別のつかない程に地に平伏したユニコーンの亡骸が、

「……!」

動いて、いた。

本能的な殺気を感じ、杖を再び構える。むせ返る様な死の充満する中、自分以外の生命がまだ呼吸をしているのが、今の彼にとっては醜悪以外の何者でもない。
神経を限界まで研ぎ澄ます。赦されない死の呪文を二度も唱えるのに、それは未だ未熟な彼には必要不可欠な物だった。

…然しそんな彼の行動とは裏腹に、ユニコーンは一向にその足で立ち上がろうとはしない。たっぷりと観察期間をおいて、彼はゆっくりと臨戦体制を解く。
おかしい、何かが…違う。
その時、再びユニコーンが、否。



ユニコーンの下腹が大きく揺れ動いた。



「…胎児、か…?」

考えてみれば、正真正銘本物のユニコーンが、自分達の様な若輩におめおめと殺される事があるのだろうか。幾らルイの腹に押さえられ身動きが出来なかったからだとしても、それはあまりにも不自然だ。
ゆっくりと近づき、揺れを見つめる。母体に異変が起きた事に気付いたのか、胎に居る新しい命はしきりに寝返りを打ち続けていた。

身重のユニコーンは、その攻撃力が落ちるという噂を聴いた事がある。母であろうとする心と、他の生物への憤怒が入り混じるのは、母体にも胎児にも影響を及ぼすからだろうと言われている。
それでも、このユニコーンは自分の宿命から逃れる事は出来なかった。万物、特にユニコーンが最も忌むべき人間が二人、出産期に入り一番神経質になっている時期に、無作法に近付いて来た事が、耐えられなかったのだろう。

「…これは傑作だ。」

母に捨てられ、母の愛を受ける事が出来なかった彼女を殺したのが、他ならぬ母そのものだったとは。思わず嘲笑が浮かんだ。
生憎と、自分の不老不死の願いを叶えるのには、この母体を切り刻み、その銀色の血潮を飲んで仕舞えば良いのだが…






「こんなもの、






さぞ胸焼けがするに違いない。」






酸素の供給を絶たれて苦しいのか、胎動はさっきよりも激しくなる。彼はその中心部目掛けて…一気に足を振り下ろした。
生温い異物の感触。目尻を歪め、間髪いれずに次の一撃を繰り出す。硬い骨、弾力のある筋肉、その中に感じる一本の角すら、今は自分を害する手段にもならない。その感覚に、背筋がゾクゾクする程酔い痴れた。


蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る。

砕く捻る踏み付ける砕く捻る踏み付ける。

蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る!!!!
砕く捻る踏み付ける砕く捻る踏み付ける!!!

蹴る!!!蹴る!!!蹴る!!!蹴る!!!蹴る!!!

「は、」

一切合切全てをその足で踏み付ける!!!









「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」









『ヴォルデモート』は勘違いをしていた。
母に捨てられ母に殺された人間が、その母の血によって蘇る姿は、さぞ滑稽でどうし様もない物だと思ったからだ。
彼女が息を吹き返し、自分の惨状に気付いた時の、驚愕と恐怖と絶望に塗り潰される様が見たいという、己の願望なのだと思ってからだ。



『ヴォルデモート』は勘違いをしていた。
自分の呼吸がいつもより、僅かに速くなっていた事を。

愉悦故の興奮と、期待への焦燥感なのだと思っていたからだ。




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