happy days | ナノ


□happy days 65
463/497






貴方が、好きでした。



「…ッアリスう!!!どこ行ってたのさあ!!」

パッとこちらを振り返ってくれた友人の声に、アリスは思わず涙腺が熱くなった。然しそんな行為をエヴェレストよりも高々と聳え立つ彼のプライドが許してくれる筈も無く、結局いつもの様に、足元の白く濁った地面へ地団駄を踏む事しか出来なかった。



貴方が、心から、好きでした。



何が『純血』だ、何が『友達』だ。
甘く見ていたその痛みは、たったひとかけらの小さな破片は、今、確実なる痛覚を持って、アリスの全身を襲う。
何が覚悟だ、何が決意だ。
狼狽えて頭を撫でてくるキールの手の温かさとは裏腹に、アリスの心は急速に熱を失っていった。




それが、許されないことなのだと。
それが、かなわない願いなのだと。




「…あら、月。」

暗雲の晴れ間から注がれる青色の月明かりに、彼女はフワリと黒髪を震わせて微笑んだ。刺す様に冷たい大気は、そんな呟きを白い靄へと変える。
『幸せ』は誰にでも降りかかる。それは『不幸』と同じ様に、何の隔たりも無く、人を包んで行く。



知っていながらも、私は。
貴方が、あふれるくらいに好きでした。




ならば願う。あの孤独な二人をどうか、凍てつく涙で濡らさないで欲しい。
まだまだ遠い春がその涙で溶かしてくれるのならば、こんな思いはしないのを、彼女は知っている。

「──…『幸せ』は、誰だって欲しいもの。」

小さく暗がりの中で漏れたその言葉は、寒空の中たった一人で報告や指示を繰り返し、彼女の隣でどっぷりとうたた寝に浸かっている、彼女の大切な人への、満ち足りた愛へと変わった。






伝わらないこの想いは、
どうしたらいいのでしょう。

そばに居て欲しいこの気持ちは、
どうすればいいのでしょう。

あきらめだとか、わすれるだとか。
そんなことすら出来ないこの恋は。






あなたを、『不幸』にするのでしょうか。










歯にハンカチを引っ掛け、器用に結び目を作る。
乱闘で破けたお気に入りのそれは今、そこら辺で適当に拾った小枝を包んで、痛みの麻痺したルイの腕を支える添え木へと姿を変えた。
出来れば両腕で、と言いたい所だが、そうなると身動き一つしない彼女の身体が裏返ってしまうので、それを支える為に、彼は止む無く片手でそれを防がなければならなかった。

血の気の引いた青白い顔は、あの爆発しそうな程溌剌とした表情を浮かべていたとは思えない程に大人びている。
毎日馬鹿をやらかして、大口を開けて笑っているからだろう。静かに閉じられ、蚊の羽音の様に小さく不規則な呼吸が一雫、たっぷりと時間を掛けて吐き出している彼女は、別人の様だった。

「…いつもこの位、
静かにしてくれたら良かったのに。」

ぬるりとした感覚が掌を覆ったのにも顔色一つ変えず、彼は小さく風穴の空いたルイの腹をゆっくりと撫でる。命がこの瞬間にも消え去る寸前にも関わらず、その傷口は今なお熱を失わない。
とくり、とくり、…周りの雪をジワジワと溶かして行く血潮は、彼女の熱をこれ以上奪わせまいと必死になっている様にも見えた。




[次へ#]
[*前へ]



[戻る]
[TOPへ]
bkm





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -