happy days | ナノ


□happy days 60
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『凄いわねぇ、リリー。』
『エヴァンスが羨ましい。』
『リリー…ッ大好き!!』

一番好きだったのは、褒められる事。
一番心地良いのは、憧れられる事。
一番欲しかったのは、愛される事。

『100点満点です、ブラック。』
『格好良くて、素敵よねえ。』
『…嫌だな、って、思ったの。』



「…ッあああーもう!!!」

リリーは綺麗に波打つ赤毛をぐしゃぐしゃとかき乱して唸った。湿っぽい音を立てて茹で上がる怒りというのは、苦手だ。声にも顔にも出す事が出来ない方のは、もっと。
そして落ち着こうとする度に、シリウスのあのつまらなそうな顔が頭の中に思い浮かんで、余計苛々するのである。不毛だった。

リリーは、シリウスが苦手だ。周りから見たらむしろ嫌いなんじゃないかと思うが、しかし一応、仲間としては認めているのである。
しかし…苦手なのだ、どうしても。
天才肌で、ルックスも良く、周りを魅了して止まない人間。知らない内に影響を与える癖に、それはそれは屈託のない笑みで笑う。
これで性格が悪かったならば、そんな面ばかりを見ていたのならば、セブルスの様にきっと思う存分、憎めていた筈なのだ。
けれど、優しいのも、純粋なのも、誰より脆く崩れやすいのを、知ってしまった。

…ルイの、心の傷を癒す為の消失の際、かつての彼は見た事もないほど消沈するのを、自分は過去に一度、既に見ている。
それは見守っている此方が、ぎゅっとたまらず苦しくなるくらいに…その背中を、とても小さく見せた。

「…だからって、酷いわよ。」

大切な存在。大切な少女。
小さくてふわふわして、けれど硝子みたいに透き通っている、大切な友達。
自分に無い繊細さとか、可愛らしさとか。
自分が求めた『女の子』の象徴で。
壊れてしまうのが怖くて、消えてしまうのが怖くて、つい、甘やかしてしまうけど。
とても、とても…大好きな、彼女。

とても小さな背中だった。力が他人より強いのは自覚している自分でも、きっと少しでも力の加減を間違えば、すぐに亀裂を走らせ壊れてしまうような背中だった。
けれども、壊れはしなかったのだ。
何度となく、苦痛や悲鳴を飲み込んで、憎悪と理不尽に噛み付いて、誰も傷付けさせまいと、自身の身体を苛む姿は、いつまでも壊れる事など無かった。
…単純に言ってしまえば、きっと彼女は誰よりも、いつまでも強かったのである。

甘えてもらっていると自負していた。
一番信頼されていると思い込んでいた。
それらの驕りは結局最近になって、シャボン玉のように簡単に踏みにじられたのだけれど、彼女をより知ったのもまた事実だ。
だって…先に、『彼』が知ったのだから。
それが何よりも苦しかった、事。

「…ルイが良いなら、良いけど…」

彼女を想う人間の身として、また同じように彼女を想う人間の気持ちは分かる。
…想う、というにしては、少々救いがないようにも思えるような、馬鹿ばかりだが。
だから、彼女にはそれを救って欲しい。
その為には…認めてはいけないのだ。

談話室に入って、改めて周りの空気が自身の肌を痛めていたのだと認識する。皹切れた手を暖炉で温めようと、リリーはソファの後ろから回り込もうとした。

「…あら、」

すぅすぅと聞こえる吐息を起こしてしまい兼ねない声に、思わず誰と言わずにシーッと歯笛を立てる。幸いにも周りには誰も居なかったので、息を吐いて肩を落とした。
再び吸った酸素は、笑顔を一緒に連れて来る。ああもう、だから甘やかすのだろう。

「…全く、もう。
風邪でも引いたら…」

どうするのよ、なんて咎める声など露知らず、飲みかけの紅茶とクッキーをテーブルに置いたまま、ルイはソファに仰向けになって、天井を大きく仰いだまま、呆けた顔で寝息を立てていた。








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