happy days | ナノ


□happy days 59
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「彼奴とは…馴れ合いとう無い。
本人に会えば貴様等も分かる筈だ。」
「アリスがそこまで言うなんてねぇ。
そんなにトム・リドルって嫌な奴なんだぁ??」
「…嫌な、とかでは、無い。
僕は純粋に…彼奴が、恐ろしい。

まるで、這い上がる悪寒を必死に耐え忍ぶかの様に、アリスは心なしか体を硬くする。
普段己を見失う事の無い彼だからこそ、その反応はあまりにも不可思議だった。
キールが、心配そうな目でルイを見た。
彼女は一つ溜め息をついて…

「…ま、気にしなさんな。」

小さくなったアリスの肩を、軽く叩く。
不安に揺れる緑光石に、兎角明るい笑顔を見せて、ヒラヒラ手を振り宣言する。

「アリスが、一人で抱える物じゃない。」
「…ルイ…」
「…ふーぁ!!私次の授業さぼるわ。
一寝入りして来ますって言っといて。」
「また言うの僕なのぉ??」
「だって『魔法史』でしょー??
あんなのの為に人生の限られた時間を割くとか勿体無さ過ぎて涙が出る。」
「次の『変身術』には来るんだよぉ」
「さー・いえっさー…」

歩く事さえ気だるげに、ルイはふやけた敬礼を二人にしてみせながら、ローブの翻る人混みの中に消えて行った。

「…強いな。」
「ね。だからアリスも頑張ってねぇ。」
「…プルウェット、貴様はもう良いのか??」
「僕にはアリスに勝てる物がないからね。
きっと…みんなで居る事の方が、」

幸せだものねぇ、と、あくまでアルジャーノンにはにかむキールに、

「…無欲な奴め。」

アリスは笑顔を返す事しか出来なかった。













「あーあ…眠い、なーぁ…」

此処は城だ。
物質的な意味でもそうだし、抽象的に言っても、此処は自分を守る城だ。

自分の名前が、嫌いだった。
自分の本名を、名乗りたく無かった。
いつも他人には『ルイだ』としか名乗らなかった。あの記念すべき組分けの儀式の時でさえ、自分の名を呼ばれるより先に前に出て、全校生徒にそう名乗りを上げた。
厳格なマクゴナガル先生に新学期早々殺されるかと思ったが、後でちゃっかり泣きながら弁解してみせたらあっさり信じてくれて、貰い泣きまでしてもらった。
本当に、…大人なんて、ちょろいもんだ。

アリスとキールとは、一年生の時に出逢った。
スリザリンの空気に馴染めず、誰も止めない事をいい事に部屋に引きこもっていたアリスに興味を持って、ついでにその時偶然知り合ったキールと意気投合して、アリスを外へ引きずり出したのだ。最初はちゃんとやって行けるかと流石に心配になったけれど、案外結構…楽しくやれているのである。

「さーてと、何して暇潰そう??」

暇と感じるなら授業に出ろと言われそうだが、その暇というのが大好きなのだ。
所詮此処から出てしまえば、城は廃墟に、勇ましい姫君は、ただの世界の歯車となる。
ならばそれまでの時間、自分の好き勝手に過ごして一体何がいけないのだろう??

「…やっぱ、昼寝ですよねー!!!」

一人で歓声を上げ、慣れた手つきで木に登る。端から見れば寂しい人??そんなの気にしない。だって誰も居ないのである。
んしょんしょ声を出しながら、一番太くて節くれだった幹に手をかけて、ぐんと体を引き上げる。小枝でローブを破いたり、スカートを引っ掛けたりしたのは、大分昔の事。
新緑の光が目を優しくつつく、ここは一番私が好きな場所。生命力に庇護された視界に、雑多な欲望なんてありはしない。

「…トム・リドル、ねぇ。」

勿論知っている。自分のキャラクターと設定上、あそこでは知らない振りをしなければならなかったけれど、流石に分かっていた。
まだ顔は拝めて居ないのだが、きっとアリスの言った通り、腹の中が薄暗い性格の、良い子ぶりっ子なんだろう。

『彼奴とは…馴れ合いとう無い。
本人に会えば貴様等も分かる筈だ。』

「って言っても、会える訳ないしなぁ…」

元々、人間の好き嫌いは激しい方だ。それを臆さずさらけ出している所為か、自身が嫌いな人及び自分を嫌っている人に対して、かなり受けが悪いのも分かっている。
特に困る事はないが、敢えて言うなれば交友関係は自分で切り拓いて行くタイプなので、『友達の友達』というのは、なかなかに苦手だったりする。
聞いたところ、かなりグリフィンドール生をねちねちと苛めているらしいから、まず自分と顔を合わせる事もないだろう。
勿論こちらも、会う気は無いのだが…







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