happy days | ナノ


□happy days 58
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何度、願った事だろう。






「あ、センパイお帰りなさーい☆」
「…何故貴様が此処に居る。」
「そこは疲れた首を慣らしながら『あぁ…只今』とか言うべきですよー☆」
「僕は疲れたリーマンか…ていうか人のベッドで寝るな本を読むな物を食うなティータイムするな速やかに今すぐ出て行け。」
「乙女の秘密を見ましたね!!」
「素晴らしく小汚い乙女だな。」

布団の上に散らばったお菓子の屑を床に落として、ついでの優しさでクシャクシャに脱ぎ捨てられたローブをハンガーにかけてやりながら、セブルスは恐ろしく世話のかかる、レギュラスという後輩を睨みつけた。
そういう所が大好きですよ☆とにっこりされて、そういう所が大嫌いだぞと返すにも関わらず、彼は相変わらずベッドに寝転んで、『組体操の海老!!』とか無駄に頑張って人生を浪費しまくっていた。

「…言わなかった。」
「…へぇ、そうですかぁ。」

放っておいて欲しかった。
誰の温もりも知りたくなかった。
…別れた時の辛さを知るのならば、例えどんなに優しい光でも、要らなかった。
暗闇を植え付けられた。
どこまでも一人で歩く道を教えられた。
『幸せ』を恨む道を、『幸せ』を探す上で誰もが知る絶望を、押し付けられたのだ。







『私は弱いんだよ、セブ。
どうしようもない位頭が悪い。
自分の全てを擲って守りたい物を、
私は半端じゃない位に誤ってしまった。
何も変えられる力なんて無かったんだ。
本当に欲しい物じゃ無かったんだ。
だけど、だけどね。
私は守ってしまったんだ。
壊れてしまった物を、必死に抱き締めて。
いつか戻るいつか直る…そんな言葉を呪いの様に、魔法の様に信じたんだ。

私は『幸せ』が欲しかった。
私は『幸せ』を願っていた。
壊れてしまった物がいつか戻って。
零れ落ちた『幸せ』が、直る事を。

『幸せ』になりたかったよ。
『幸せ』が欲しかったよ。
だけど、だけどね。
それを手に入れる力も強さも。
私には無かった、ある筈が無かった。



ねぇ…セブ。
『幸せ』になってはいけないよ。
『幸せ』を欲してはいけないよ。

『幸せ』を願って、間違えないで。
私みたいに、守る物を誤らないで。






誤ってしまった私を、
こんな暗闇に置いていかないで。』







「置いていくには、重すぎる。」
「…あは、優しいんですねぇ。」

片眉と肩を同時にピクリと竦ませるその動作から考えられる反応に、レギュラスは笑んだ。
天井に真っ直ぐ伸ばしていた足を大きく振り込んで、その反動を利用した起立。
下で乱雑に散らばっていたローファーに足を通し、トントンと踵を鳴らして立ち上がる。
嗚呼、これからどこかで寝直そうか。



「センパイ、崩れちゃ駄目ですよ??
『幸せ』なのは、センパイだけで十分です。」

「…あぁ。



全く、その通りだ。」









何度、願った事だろう。
何度、踏みにじられた事だろう。










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bkm





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