「…相変わらずソリが合っとらんなァ。」
「もう慣れたけど。」
でも、以前よりはずっと良くなったと思う。少なくとも憎まれ口を聞いていがみ合うだけ、まだマシになった方だし、何も言わずただ敵意と悪情だけで睨み合うよりも、今の方が自分的にはずっと良かった。
ファングに一頻りじゃれられて、べとべとになった手を借りた布巾で拭きながら、ルイはハグリッドのお茶が入るのを待つ。
格別に美味しい訳では無いけれど、たまにこうして家に呼んでもらって、一緒にお茶を飲みながら過ごすのが好きなのだ。
そんな、蛇の舌みたいにチラチラ燃える暖炉の火をぼんやり見ていたルイの視線が、ふと…一冊の本に立ち止まった。
「……」
───古ぼけた、ぼろぼろの本だ。
表紙も帯もくたびれて、全体的に薄汚れている。なのに何故か目に留まったのだ。
目が吸い込まれる様だったかも知れない。
立ち上がり、下で寝そべっていたファングを踏まない様に注意しながらそちらへ向かう。部屋の隅にある窓から、北風がすきま風となって、微かに髪を揺らしていた。
「…ハグリッド、これ…何??」
「おぉ、そりゃなっつかしい!!
オレのホグワーツ時代のアルバムだ。」
「アルバム…??」
埃を払い、表紙に張ってある写真を見つめた。髭は無く、今よりちょっと小柄な巨体の青年が、はにかみながらこちらを見つめ返している…若い頃のハグリッドだ。
「ちぃと色々あって、オレはホグワーツを途中で退学したんだ。でも昔の仲間が可哀想だっちゅうて、ある分だけの写真をかき集めて作ってくれてな??」
嬉しかったと顔を綻ばせるその表情は、写真の青年とそっくりだ。一度青年に笑いかけてから、ルイはページを捲り…
「…、え??」
床が一瞬抜けた様な、感覚がして。
目を掠めたその写真を、
もう一度見ようとして。
「さっむぅぅぅぅ!!」「ハグリッド!!茶!!茶ァ!!」
「死ぬ…シンジャウ…!!」
「ちょっと貴方達、少しは礼儀正しく…えぇっと、お邪魔するわハグリッド!!
…あら、ルイったらここに居たの??」
体中粉雪だらけで、指先と鼻の先を真っ赤にしたジェームズ達がどやどやと、その人数が入りきるには少し手狭なこの場所に入って来たので、ルイは慌ててアルバムを閉じて元の場所にしまい、場所を開けてやらなければならなかった。
どうやらサバイバル雪合戦は終わった様だ。
「ゆ、雪かきは終わった??」
「お陰様で。」
「一人で終わらせたのかい??」
「ううん、手伝って貰ったの。」
「あら、誰に??」
「セブルスに…ッあ、」
言わなきゃ良かったとルイは後悔した。またシリウスの機嫌を損ねてしまう。聞き捨てならない言葉を聞いたと、シリウスの眉間の皺が訴えて来るのを空気で感じた。
ああきっとまたどやされるんだ…ルイはギュッと奥歯を噛み締めた。
「…ふーん。
アイツも役に立つじゃねぇの。」
「…え、」
「あら。」
「ワォ、どういう風の吹き回しかいパッドフット??スニベルスの事になったらいっつも、こーんなに目をつり上げて怒る癖に。」
「…うっせぇ、いいだろ別に。」
みょーんと自分の目尻を指で押し上げてみせるジェームズに、フンと鼻を鳴らしてそっぽを向いたシリウスは、ピーターの皿からロックケーキを一欠片奪い取ると、ケーキとしては異様なガリガリという破壊音を立てながらあっという間に噛み砕き飲み込んでしまった。
ジェームズが『素直じゃないなぁ』と首を捻り、リリーが『やっと貴方もスネイプの事を理解する気になったのね!!良い心がけよ!!』と何か妙な感じで勘違いする中。
「……」
ルイは、胸の中で溶け出した気持ちを上手く飲み込めなかった。
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