happy days | ナノ


□happy days 58
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「寝るなァ寝たら死ぬぞォォォ!!」
「へぶぅいしッ!!!」


突然の痛みは、キンと冷えていた。
貯まらずパウダースノウの山に突っ込むと、マフラーの間から入り込んだ雪が項を濡らす。
シリウスはそれまでの瞑想気分を消し飛ばし、いつもの様に怒髪衝天の勢いで、眼鏡の苛つく襲来者に怒鳴り散らした。

──…てッめェェコラァァァジェームズゥゥゥ!!
病み上がりだからってやりすぎたら容赦しねぇぞコノヤロへぶぅィしッッ!!」
「やりましたッ!!ここでポッター選手まさかのサヨナラ逆転ホームラン!!」
「おまッ、これ硬ッ、ああああ指が!!
指が直視出来ない様な形にィィィ!!」
「安心しな、峰打ちだよ…」
「指に峰もクソもあるかあああ!!」

映像じゃリアルに痛そうで映せない指を押さえて、シリウスは雪の上にうずくまる。
その背中を容赦なく襲い来る雪つぶて。
ぎりぎりで気配を察し、そのまま横に転がり込む!!なかなかに力を込められていたのか、雪玉は少々その形を崩しただけだ。

「…良くぞ避けたわね。流石はブラック家のお坊ちゃまと言うべきかしら??」

が然し、雪白の戦場は終わらない。
シリウスはその雪さえ溶かす異常な戦意を、今まで感じ無かった自分を悔いた。
カッと光る眼孔の中、燃え上がる闘志。
ザッ、と白煙を立たせ、足場を取られる。

「受けて立ちなさい!!
嘗てハグリッドまで昏倒させた幻の一発!!」
「いやそれ普通に人死ぬだろって…
うわあイ○ローだ!!イ○ロー構えだ!!
あいつ俺を夜空の星にする気だ!!!」
「天に伸びる脚がカモシカの様だねリリー!!」
「カモシカって実は脚短いんだよジェームズ…
ってうわ、こっち来たこっち来たァァァ!!」
「ピーターの馬鹿野郎ォォォォォ!!!」

ピーターの無駄知恵に、シリウスは泣いた。
放たれた雪玉が、そう──子供位ならすっぽり入りそうな雪玉が、まるで砲弾の様に突っ込んで来た。






どごーん、と。
何処かで爆撃でもあったのだろうか。
そう疑いたくなる様な音が耳を掠める。

「…む??」

氷の様に冷たかったシャベルが、手のひらの熱で漸くふやけ始めて来た。
それを雪の中に一度深く突き刺して、自然に浮かんで来た額の汗を拭った。
赤くなった鼻からは、雪水の匂いがした。

「セブルス、寒くない??」

同じように鼻と頬を寒さで赤くしている癖に、何だか元気にルイは聞いて来る。
雪と言っても雪玉みたいな量じゃない、びっくりする位重量感のあるそれらを、ただひたすら積み上げて行くだけなのに、何だか彼女は楽しそうだった。
自分が居るから、なのだろうか。そう考えるとついつい意識がのぼせてしまう。
ぶんぶん首を振って、頬の熱と下らない思考を振り切った。阿呆らしい!!

「…良かったのか??
エヴァンス達と居なくて…」
「ううん、私の方こそ悪いわ。
セブルスだって病み上がりじゃない、まだ寝てた方が良いのに…」

ハグリッドが『禁じられた森』から戻るまでの間、一人で黙々と雪かきをしていたルイを、果たして放っておけるだろうか。
考えるだけでも無駄な問いかけだった。
ていうか何でアイツ等は手伝わないのかと聞いたところ、途中でジェームズがふざけて投げた玉がリリーに当たり、憤怒した彼女がビシビシ攻撃している内にどんどん離れて行ってしまったらしい。
彼女が負けず嫌いなのはセブルスだって知って居るが、いつの間にかサバイバルになっている雪合戦を目撃したのもあるので、ルイが此処で一人居たのは正解だった。

「…ルーピンは居なかったが…」
「リーマスはまだ体調悪くて、寮で寝てるわ…
……ふふ、早く治ったら良いね??」
「…いや待て、何だその言い方。」
「心配してくれてるんでしょ??」

セブルスは優しいもの、と嬉しそうに笑う彼女に言い返せないのが辛かった。
何か凄く誤解されている。居心地が悪い。
すっごい嬉しそうなのがまた辛い。自分をそんな風に評するのは、きっと後にも先にも、この少女一人だけなのだろう。

その時、何だかセブルスは大事な事を彼女に言わなければならない様な気がしたのだが、そういう考えに限ってなかなか頭に浮かび上がって来ないので、途中で考えるのが面倒になって思考を投げ捨てた。
思い出せない事というものには、大した価値はないのだ。



『頭の良いセンパイなら、

僕の言っている事が、

分かる、でしょう??』




「…ルイ。
こんな歌を…知って居るか??」
「歌??珍しいね、そんな事聞くなんて。」

どんな歌??と小首を傾げる彼女に、すぅと覚悟の深呼吸。何が起きても、自分は彼女の隣に居るのだという証みたいだった。
普段使わない歌声の神経を全集中させ、灰色がかる記憶を呼び起こしたまま、セブルスは静かに、その旋律を唇に乗せて…

「いやぁ、すまねぇなぁ二人共!!
ちょいと樅の枝切りに手こずっちまって、思ったよりも時間がかかっちまった。」
「あ、お帰りハグリッド。」
「……」
「おぅ??スネイプ、お前サンも手伝ってくれてたんか。良かった良かった。
ルイだけじゃちぃと荷が重すぎる感じがして心配しとったからな…」

毛むくじゃらのデカイ蓑虫が頭に付いている巨人…ではなく、ホグワーツの森番であるハグリッドは何がおかしいのか、目だけで此方にニヤニヤ笑いながらそう声をかけて来た。
出鼻を挫かれた声はいかんともし難い。兎に角もう色んな物が恥ずかしくて、セブルスは顔を背ける事しか出来なかった。
北風がピュッと口笛を吹き、三人の脇をすり抜けて行く。ぶるりとハグリッドの巨体が揺れ、その頭や肩に積もっていた雪がどさどさ下に落ちて来た。

「…しっかし今日は冷えとるなァ。
二人共、オレの家で茶ァでも飲んでかんか??
そのまま帰ったら風邪引いちまうぞ。」
「いいの??」
「おう、お前さんはジェームズ達が帰って来るまでゆっくり火に当たってな。」
「…僕は帰るぞ。」

ルイと暖炉を囲んでお茶を飲めるのはかなり魅力的だが、後の事を考えるとそうはして居られない。目先の事に目が眩んでも、良い事なんて1つもない。
…否、別にハグリッドの飼っている犬のファングが怖いからとかじゃない、断じてない。ただほら、あれってすぐ人に飛びかかるし、服とか汚れるし。ていうか大人の対応だろう。ハグリッドの手を煩わせたくないし、うん。
いや、本当ファングが居る所為じゃないぞ。

名残惜しそうに手を振るルイに断腸の思いで手を振り返しながら、セブルスは寮へと帰って行く。脳裏に浮かぶのはファン…いや違うってファングとか怖くないし!!







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