『人はね、海に還るの。』
潮風の混ざる風が吹く街だった。
そこはどこか灰色で薄暗く、けれど青を秘めた影を静かに横たえている街並みで。
海に近い癖に真っ青に晴れない、そんな空の下に、ぽつりとたたずむ街だった。
純血の魔法使いが居ない、どこまでも濁った色をした、そんな血しか流すことのない、雑種共が平和に暮らす場所だった。
『この世界に最初に創られた人間──
アダムとイヴは、ここから陸に上がって。』
そしてこう世界を見つめたんだ、と。
彼女は曖昧に笑ってこちらを見る。
『神様はきっと、
海から人間を創られた。』
その岩を削って骨を創り。
その命を潰して肉を創り。
その水を注いで血を創り。
『だから海は、人間が還るの。』
元居た場所へ。元在る場所へ。
陸ではその血も涙も、渇いてしまう。
『…なら、魂は??』
そのままその灰色が。
海へと融けてしまわぬ様に。
静かに自分は彼女を見上げた。
『魂は何から出来ているんだ??』
『──うーん、』
困ったなぁ、彼女はそう言いたげに苦笑いをして、手元の瓶をゆるゆる回す。
また真っ昼間から呑んで居たらしい、度数の割には匂わない薔薇の香りのする酒に眉を顰めたのに気付いて、彼女はそのまま、地平線へとそれを投げつけた。
ばしゃん、小さな波紋。酒の赤燐は黒い青色に勝つことが出来ず、拡散していく。
『──神様の涙、かなぁ。
はは、悲しいなら創らなきゃいいのにね。
…ううん、悲しいから創ったんだね。
海に混ざる涙に、私達は満たされてる。
悲しい世界に、私達は創られたんだね。』
そして彼女は。
壮絶に、儚い顔で振り返る。
『嗚呼、でも駄目だなぁ。
世界が悲しく無かったら、私達人間は生まれなかったかも知れないのに。』「センパーイ??」
瞬、セブルスは現実に回帰した。
目の前には唯一、風邪を引いても獣耳を生やさずに済んだ奇跡の生還者、又の名をレギュラスという男がピラピラ手を振っている。
汗が酷かった。己に生えた忌まわしい獣耳の内側にまで不快感が詰まって気持ち悪い。寝間着は当然ながら不可解なまでにびっしょりと濡れて、まるで今し方湖にでも潜っていましたと言えるくらいだった。
「大丈夫ですかー??
さっき部屋の前通ったら不気味なうめき声が聞こえましてー、最初はセブルスセンパイの鼾かと思ったんですけどー☆」
「…不気味で悪かったな。」
やたら笑うレギュラスに腹が立ったが、その口調からはいつもの覇気が見当たらない。
風邪を引いているからのもあるだろうが…一応、心配してくれたのだろう。
セブルスは敢えてそれに気付かないふりをさてやった。こういう時の座右の銘を知っている…『障らぬ神に祟りなし』だ。
「…潮のにおいだ。」
「ハイ、紛れもなくセンパイの汗のn」
「
少し黙れ。あと夢を考えろ貴様。」
「ぶぅー…折角センパイを魘されるくらいの悪夢から助けてあげたのにー…」
「…そうだな、それは礼を言う。」
「でしょー流石センパイ分かってるー☆」
「──…いや、本当に感謝する。」
珍しいセブルスの素直な答えに、いつもジョークを欠かさないレギュラスも思わず珍しくきょとんと目を丸くした。
レギュラスのそんな表情も知らないままで、セブルスは再び布団に潜り目を閉じてみる。
汗の臭い、そうだ、潮騒ではない。
分かっているのに何故だろうか、さっきの夢が、嫌に現実味を帯びて迫って来る。
もちろん自分は眠っていた。
あの夢が、記憶がただ、あまりにも自分の深層を知り尽くしていただけで。
「ああ、眠いなぁ。」
名も知らない女がいつも呟いていた台詞が、自分の体内から響いて来た。
それは潮騒さえも、自分の鼓動さえも支配して来て、セブルスは耳を塞いだ。
TO BE COUNTIUE...
後書き…
いろいろ暴走してみたり。
レギュに耳生やすか生やすまいか迷ったけど、彼は別にどっちでもへらへらしてそうだな、と。描写すんの面倒だし。
一応イメージは黒豹なんだけども…
海はうんたら〜の解釈説明。
岩を削って骨=岩塩のカルシウム的な。
命を潰して肉=魚介類食ってますよ。
水を注いで血=しょっぱいし。
一応さりげに伏線張ってたり。
この話、意外と早く終わりそうだな。
連載で書きたかったエピソードの一つ。
ただ原案が結構痛かったので急遽変更。
ルイさんは獣耳フェチだと思うんだ!
続きます!!
[次へ#]
[*前へ]
[
戻る]
[
TOPへ]