happy days | ナノ


□happy days 55
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そこには、さっきからピクピク動いているリーマスの耳を、至福の表情で撫でるルイがいた。シリウスも驚いた。気付かなかった。

『あ、あのさルイ…その…
恥ずかしいからやめてくれない、かな…撫でるの…』

あの内厚顔無知のリーマスが、たじろいでいる。恥ずかしがっている。困っている。
その行動と相成り、灰色の大きな耳が後ろ向きに下がり、鳶色の髪に隠れる様に埋もれた。
顔を赤く(そういや一応病人だった)させ、不安そうに彼女を見上げても…

『…ッかわいいいいいぃッ…!!』

然しその仕草が更にルイの暴走を助長させたのだから、せむかたなしだった。









人間、誰しも好き嫌いがある。
否、この場合『つぼ』と言わせて貰おう。
『つぼ』…別に花瓶とか、金持ちの家に威厳たっぷり嫌みたっぷりぷりっぷりに置いてある悪趣味なあれではない。
最早好き嫌いとはまた別次元だが…容姿身長思考や性格、行く所まで行けば耳の形や声や髪質など、細やか過ぎる所まで、『つぼ』は十人十色、千差万別である。
相手の何気ないふとした仕草や一動に、『つぼ』を押された人間は魅力される。

シリウスで言えば、ゴージャスな金髪よりも涼やかな黒髪が良い。強気な性格でブイブイ言われるより、気の弱い奴がにゃるにゃるしてるのがたまらんとか、そんな感じである。
ちなみにジェームズは言うまでもなくリリーそのものらしい。彼女が何かする度にモエモエ言ってるのはその所為だろう。まぁ言う度に気持ち悪いと言ってぶん殴られるけど。

兎に角だ。うさぎにつのだ。兎に角だ。
この些か分かり難い説明で分かってくれるならば良いが…兎に角なのだ。

シリウスの目の前で、リーマスの獣耳を撫でるに飽きたらず頬摺りし始めた彼女…
ルイは、獣耳が『つぼ』だった。









「シリウス、リーマスの具合はどう??」

台詞だけ聞けば、友人の心配をする優しい子だ。もうちょい深読みするなら、想い人を密かに気にかける恋する乙女だ。

…いやいや、それは無い、無いで欲しいとシリウスはちょっぴり悲しくなって首を振る。
が、今はそんな甘じょっぱい気持ちになる心配はない。今の彼女はリーマスを、というよりリーマスの獣耳に絆されているのだ。
うんシリウス大丈夫、シリウス強い子。

ちらりと隣を歩くルイへと視線を向けると、表情は明らかに普通じゃなかった。
ついでとばかりに口を開いて、その異常性がさぁどうとてばかりに点滅して来る。

「えへへ…今頃どうしてるかなぁ…熱がまだ下がってないんなら苦しいだろうな、苦しいだろうね…苦しいついでに動くのかなあの耳…もこもこ動いてるのかな!!
動いてるよね!!寧ろ動いてて欲しい!!」

もこもこ!!もこもこ!!と遂に叫び始めた好きな子とかしぃうす見たくないよ!!
思わず幼児化して心中で叫ぶと、その気持ちが届いたのかとりあえずルイはもこもこ叫ぶのをやめてくれた。

「…お前興奮し過ぎだって…
たかが動物の耳だぞ。」
「酷い!!獣耳は世界を救うのに!!」
「救えちゃうの!!?」

獣耳なんかに救われたくないと祈る。
どうやら、いつもの暴走役であるジェームズや実はトラブルメーカーなセブルスが居ない所為か、ルイ自身が少し混乱してるみたいだ。
しかし…ふと静かになったルイに気付いて、声をかける。

「ルイ??」
「…ねぇ、手貸してシリウス。」
「あ??おぅ…」

何だか真剣な声音で言われたので思わず従うシリウス。
すべすべとしてほんのり温かいの手が、優しく触れる。
ふっとルイが下から顔を覗き込んできた。
微笑むように煌く褐色に、やはり素直な心臓はどくりと脈打って…



「シリウスは垂れ耳が似合いそうだね!!!」



そのままひょいと手首に持ち替えられて、力も入っていなかった両手がこめかみに当てられる。
鏡で確認できたのなら、きっと今の自分はちょうど、耳を垂らした犬のような顔をしていただろう。きょとん、みたいな。
満足したのかえへへぇという喜色満面の笑みを浮かべるルイ。
可愛い。可愛いけど何か違う。可愛いけど何かおかしい!!!
照れ臭いやらちょっと引きたいやら、シリウスは何とも微妙な気分になった。

「(…寂しいのかもな。)」

いつもならワイワイガヤガヤと煩い位に場を盛り上げてくれるはずのメンバーが居ないのは、残された者達に大きな変化を与える。
本人にそんな気はきっと無いんだろうけれど(本当に純粋に獣耳好きなのもある)、第三者だからこそ、何となく解る。

自分だけでは、足りないのか。
自分だけでは、寂しいのか。

その事にチクリとした痛みを感じつつ、こめかみにある手を下ろしたシリウスは『曖昧模糊!!曖昧模糊!!』と何故かノリ良く叫び出したルイを見つめた。

「…オイ、ところでリリーは大丈夫なのかよ。」
「あ、リリー??うん、大丈夫。
とっても可愛い白猫さんだったよ〜えへへ〜」
「……」

見てみたいかも、とシリウスは思った。
恐るべし、獣耳の魔力。










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