happy days | ナノ


□happy days 54
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「…しゃーねぇな。」



突如、ふわりと頬に感じた空気の揺れは、すぐに温かな空間へと変わる。
ルイはぽかんと口を開けた。
状況が飲み込めない間考えたのは、凄くふわふわしてるなぁとか、すっとするミントみたいな匂いがするとか、ちょっとだけあったかいなぁとか、そんな他愛もない事。

「んな薄着なら寒ィに決まってんだろ。
薬もらえるまで巻いとけよ。」
「で、でもシリウスが…」
「俺は暑がりだからいーの。」

確かに今まで巻いていたのが無くなれば、その分冷たい空気が首に触れて寒いのは当たり前だ。けれど別に自分は彼女ほど薄着している訳でもないし。
自分だけ暖を取るのにモゴモゴぼやいていたルイだったが、しばらくすると本能の方が勝ったのか、巻いてもらった上等な肌触りに深く顔を埋めた。

うーん可愛い。ぽやんと不思議な恍惚に満たされてシリウスは目を細めて思う。
リーマスを置いて来て良かった。彼ならきっとルイがくしゃみをする前に、自分に過剰な程巻きついたマフラーを、彼女限定の優しさと共に譲っていただろう。

…が然し、常日頃こんな感じで良いムードになりつつも必ずと言っていい程様々な変化球でそれをぶち壊されているシリウスにとって、こんなにもすんなりと自分の思い通りに事が進むのはむしろ異様だった。
あれ、何か今回は俺に優しい展開じゃね??
この感じだとこの後いい事とか起こりそうになくね??…などなど。
折角の甘々な気分を登場人物にあるまじき解釈で疑念に変えるシリウスであった。

「…げ、スニベルス。」

そんなルイが何故か自分を少し熱のこもった視線で見つめていた事に不幸にも気付かず、シリウスは視界の隅に捉えた、あの粘っこい光を放つ黒いてるてる坊主みたいな人物に対して途轍もなく嫌そうな顔でそう呟いた。

嫌な奴ほど鼻につくというのは本当の様だ…寧ろ全く気付かなかったルイはその声にハッとし、慌ててそちらへと向かった。
勿論残念ながら、自分が無意識の内にシリウスを見つめていた事にも、ルイは気付けなかった。






何が痛いって、喉だ。それだけが明確に分かっているセブルスは何となく憂鬱になる。
自分だって出来れば部屋でゆっくり休んで居たいのに、部屋の中で一番症状が軽いからと、無理矢理な感じで薬の買い付け役にされてしまった。
しかも他の部屋の奴らの分すら頼まれせがまれ押し付けられていたので、セブルスの機嫌はその喉の状態と共に最悪だった。

基本的に、セブルスは他人の世話をするというのが大嫌いだ。
何の根拠と理由があって自分が他人のそれまでしなければならないのだ。甘える位の気力があるなら自分で何とかしろ、というのが彼なりの持論でもある。
…まぁ、そんなセブルスの中にも、例外的に彼がそれを認める存在はいるのだが。

「セブルス!!」
「……」

流石にマスクをしているのは見えたらしい。
珍しく慌てて此方へ駆け寄って来る彼女に些か気を良くしたのか、セブルスは静かに手をひらひら振ってみせた。
否、別に声すら上げられない程ひどく痛い訳では無い。ただそれすらも億劫なだけだ、それ位許されるだろう。

「だ、大丈夫なの??」
「…しん、ぱいするな。」

痰が絡まって恐ろしくひび割れた声になり、咳でそれを整えながら答える。
ああでもやっぱ痛い。喋るのさえ面倒だ。
まさか彼女との会話さえこうなるとは…

「はい。」
「…」
「あったかい??」

ふわり。そんな音が鼓膜を揺らす。
それと共に目前で花咲く笑顔。
温かいというか、寧ろ暑いに近い熱がじんわりと、手のひらに汗となって滲む。
もう一巻き、とぐるりと首を一周する、それまで彼女がしていたマフラーは、何だかミントの様な匂いが仄かに漂っていた。

うーん幸せだ。セブルスは目を細める。
先程誰かも同じ様な事を考えていたとは、その時の彼には思いもつかなかったが。

「…何してんだよお前。」
「あぅッ?!」
「なッ…貴様!!」

そんな甘々な一時を、ローリングアタックしながら破壊して来た輩が居た。
ルイの頭を軽く小突き(然し威力は意外とあったらしく、彼女は涙目だった)、憮然というか寧ろ機嫌最悪な表情を隠しもせずに、シリウスがセブルスを睨みつけて来る。
相変わらずのお邪魔虫である。pkmnで言うならジャリボーイである。drmnで言うなら出来杉君である。…兎に角である。

「まさか女に手を上げる程性根が腐っていたとは…見損なったぞブラック!!」

何だか酷く裏切られた様な気持ちがして、可愛さ無くて憎さ100倍、痛みで焼け付く喉など構わずセブルスはシリウスに噛み付く。
が然し…今日の彼は何処か違った。

何というか、こう…怒りの視点が違う。
いつも険悪な雰囲気でぶつかり合う自分だから分かる。やたらめったらに彼のやることなすこと全てが気に入らない自分だからこそ、彼の怒りの矛先が普段なら滅多に向けられないであろう相手…未だに頭をさすっているルイに行き先を変更しているのがありありと感じられた。

「…テメェは何でここまで俺の神経を歯ブラシで逆撫でする様な事をやってのけんだ??ん??此方は摩擦されてヒリヒリどころか軽く皮膚が剥けそうなんだがよーぉ…??」
「ヒッ…!!」
「…!?」

セブルスすらも思わず一歩下がる、まるで地獄の底から響いて来る様な恨めしい怨言が鼓膜を震えさせる。
何だコイツ、アレか、ヤンデレだったのか。今にも顔を歪めて『嘘だッッ!!』とか叫びそうなシリウスの覇気に、ルイは怖いやら驚くやら。

「シ、シリウス…怒って、る??」
「そりゃあもう満遍なく☆」
「…何でか聞いても、い、良い…??」
「何でかってェ…??…そりゃあテメェ…
俺が(自然を装って)貸してやったマフラーを、何ッッッッでスニベルスの野郎なんかに貸すんだよ!!お前のその寝ぼけた頭掻ッ開くぞ、あぁん!!?」
「あ、暖かさのお裾分け…みたいな??」
「よし、掻ッ開く。」
「…セ、セブルスゥ…!!」
「…今のはルイが悪い。」

ていうか僕に振るな僕に。







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