happy days | ナノ


□happy days 54
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「うわ、多いなオイ…」
「泊めて貰えるかな…」

医務室前の廊下に溢れかえるざわめきにげんなりとしてリーマスが呟く。
けれども恐らく、この人混みの殆どが、自分達の様に頭痛薬や熱冷ましを貰いに来た奴らばかりだろうとシリウスは考えた。
自室で療養する様にというお達しが下されて居る今、医務室に居るのは本当に容態の良くない生徒しか居ない。

「大丈夫だろ。マダム・ポンフリーは医務室に病人が居るのが嫌いだからな。」
「──…そうだね…」
「…おい、本当に大丈夫かよ??」
「暑い…」
「我慢しろ、体壊したら元も子もねぇ。」

薄い地のパジャマしか着ていなかったリーマスは、シリウスからセーターにコート、マフラーに帽子まで被らされていた。自分の熱に耐えきれないのか何度かリーマスは抗議したが無視した。

「──あ。」
「──あ。」

二人は思わず同時に声を上げた。
熱は出ていてもその存在だけは分かるらしい、シリウスはリーマスの反応に感服する。

「ルイ。」
「あ、シリウス、リーマス。」

茶色い紙袋を抱え、薬待ちの人混みに一人佇んでいたのは、褐色の瞳のあの少女。
着馴れて少し古ぼけたセーターはあまり温かそうには見えないが、頭にはしっかり防寒用のベレー帽。何となく見覚えがあるのと、その黒い髪にあまり似合って居ないのは、恐らくその持ち主の赤毛に合わせて買われたものだからだとシリウスは気付いた。

「二人も薬待ち??」
「おぉ。」
「結構多いみたい、皆待ってるけど全然…って、リーマス大丈夫??」

酷い顔色よ、と言ってすぐに自分から逸らされたその目に少し寂しくなるが、相手は病人だ、張り合うこと自体馬鹿げている。
然し当のリーマスはというと、滅茶苦茶着込んでモコモコしているのが恥ずかしいのか、それともただ単に熱が上がっているのかは分からないが、赤い顔のまま苦笑していた。

「…多いって、じゃあ俺らも待つのか??」
「うん、私は今大広間に行ってサンドイッチとか、軽い朝食貰って来たところ。」

どうやら持久戦の様だ。さっさとリーマスを運んでやりたかったのだが仕方ない。早く並んで、医務室にたどり着かなければ。

「マダム・ポンフリーは??」
「医務室よ、多分診察中…」
「よし。リーマス、お前は此処で待っとけ。」
「え…待っとけ、って…」
「事情を説明して、医務室に入れて貰える様交渉して来る。
立ってる自体辛そうなお前引っ張ってく訳にもいかねぇだろ。」
「そうだよリーマス、無理は体に悪いわ。」
「……」

本当はただ、二人を一緒に居させたくないからついて行きたいだけなのだが…目の前のお人好し達の真摯な訴えと自分の体調に正直になり、リーマスはしぶしぶ了承して、二人を見送った。






「リリーの方は大丈夫なのか??」
「うん、今は部屋で寝てるわ。
何か寂しそうだったから、早く部屋に帰ってあげたいんだけど…」
「(…羨ましい…)」

ある意味これが親友の特権なのだろう。
彼女が勝ち誇った笑みを浮かべる姿を想像して、何だか腹がムカムカして来た。
ん??でも別にこれはいつものリリーでも行使出来る権利の様にも感じるが…

「(…ま、『病人』だからな。)」

こう見えてルイは意外と世話好きだ。
その相手が逆にむしろ自分を守ってくれる程強いなら話は別だが、基本的に弱者に優しい性格は変わらないので、必然的にその部類である今のリリーは庇護すべき対象だと彼女に見なされたのだろう。
出来れば自分もそうなりたい…シリウスはぼんやりとそんな幸せを夢想した。

「…ックシュン!!」
「お、大丈夫か??」
「うん…平気、寒いだけ。」

赤くなった鼻をさすりつつ、ルイは体の芯まで届く底冷えに背中を丸めた。
シリウスはふと彼女の首筋を見た。
マフラーすら巻かれて居ないそこは酷く白い。







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