happy days | ナノ


□happy days 53
371/497







「…私は、」



微かに漏れた呟きに目の前の灰色が揺れた途端、脳髄を重く響く痛みが駆け巡る。
ルイは思わず頭を抱え込んでこめかみを握り締めた。
目がちかちかして、開けられない。
光が点滅して回転して増加して減少して。
音が反響して残響して撹拌して縮小して。
意識が視覚が聴覚が拡大されて痛い位だ。

「ルイ!?」
「…ッ……」

そう、違うのだ。
貴方じゃない。私は貴方じゃない。
私が思うのは、貴方じゃない。
貴方の優しさは毒だった。
私を融かして蝕むだけの毒だった。
歩き出す為の力は湧かなかった。
ただ座りこんでしまうだけの毒だった。



『貴方は私を救えますか??』



そう問いかけたのは私だったのに。
いつしか私は勘違いをしていたのだ。
困った様に眉を下げた貴方の笑みが。
私を救ってくれるのだと思いこんだ。

立ち続けなければいけないのは。
苦しくても悲しくても、生きるのは。
私だ。
誰でもない、私だ。
貴方じゃないんだ。
痛みを当然の様に知っている、
貴方じゃ…ないんだ。

私は何も知らない。
痛みも苦しみも悲しみも。
勿論それは貴方のだけじゃなくて。
私がこれから受ける痛みの分もあって。
けれどそれは貴方が受けるべきじゃない。
生きる私が受けるべき痛みで悲しみで。



私は、私で。
私以外の何者でもない。
世界を変えるとか誰かの願いを叶えるとか。
そんなこと…そんな凄いこと、私みたいな人間が出来るはずもないのに。
私の世界は、他人の手でどうとでもできる位に、
弱くて、ちっぽけで、優しすぎ、て。
疑問も抵抗もなく、何度でも何度でも書き換えられて塗り潰されて。
要らなくなったら…すぐに捨てられる。
そんな世界でしかない。
その世界の持ち主の私も、
ただ良い様に使われて。
要らなくなったら…すぐに捨てられる。
みんなそうしてきた。
みんな私を捨てて来た。
私だってそれ位分かってた。



でも、
それでも、
生きるのは、貴方じゃない。
在るのは──貴方じゃない。



だって、



「だって…私も、」












こんなにも世界を、愛してるから。












『──うそつき』

「──…え…?」







『一緒に居てくれるって言ったくせに!』











[次へ#]
[*前へ]



[戻る]
[TOPへ]
bkm





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -