「…私は、」
微かに漏れた呟きに目の前の灰色が揺れた途端、脳髄を重く響く痛みが駆け巡る。
ルイは思わず頭を抱え込んでこめかみを握り締めた。
目がちかちかして、開けられない。
光が点滅して回転して増加して減少して。
音が反響して残響して撹拌して縮小して。
意識が視覚が聴覚が拡大されて痛い位だ。
「ルイ!?」
「…ッ……」
そう、違うのだ。
貴方じゃない。私は貴方じゃない。
私が思うのは、貴方じゃない。
貴方の優しさは毒だった。
私を融かして蝕むだけの毒だった。
歩き出す為の力は湧かなかった。
ただ座りこんでしまうだけの毒だった。
『貴方は私を救えますか??』
そう問いかけたのは私だったのに。
いつしか私は勘違いをしていたのだ。
困った様に眉を下げた貴方の笑みが。
私を救ってくれるのだと思いこんだ。
立ち続けなければいけないのは。
苦しくても悲しくても、生きるのは。
私だ。
誰でもない、私だ。
貴方じゃないんだ。
痛みを当然の様に知っている、
貴方じゃ…ないんだ。
私は何も知らない。
痛みも苦しみも悲しみも。
勿論それは貴方のだけじゃなくて。
私がこれから受ける痛みの分もあって。
けれどそれは貴方が受けるべきじゃない。
生きる私が受けるべき痛みで悲しみで。
私は、私で。
私以外の何者でもない。
世界を変えるとか誰かの願いを叶えるとか。
そんなこと…そんな凄いこと、私みたいな人間が出来るはずもないのに。
私の世界は、他人の手でどうとでもできる位に、
弱くて、ちっぽけで、優しすぎ、て。
疑問も抵抗もなく、何度でも何度でも書き換えられて塗り潰されて。
要らなくなったら…すぐに捨てられる。
そんな世界でしかない。
その世界の持ち主の私も、
ただ良い様に使われて。
要らなくなったら…すぐに捨てられる。
みんなそうしてきた。
みんな私を捨てて来た。
私だってそれ位分かってた。
でも、
それでも、
生きるのは、貴方じゃない。
在るのは──貴方じゃない。
だって、
「だって…私も、」
こんなにも世界を、愛してるから。
『──うそつき』
「──…え…?」
『一緒に居てくれるって言ったくせに!』
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